速報を流さない「スロー報道」が人気化のワケ 「なぜ?」に切り込むスロージャーナリズム

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オランダの「コレスポンデント」のウェブサイト。基本オランダ語だが、来年1月に英語版を立ち上げる予定だ(同社サイトより)

ロンドン、パリ、ブリュッセルと頻発するテロやテロ未遂事件、ポルトガルでは森林で大火災、北朝鮮が数回にわたるミサイル発射……。次から次へとビッグニュースが飛び込んでくる今日この頃。ひとつの事件を十分に咀嚼(そしゃく)する間もなく、また衝撃的なニュースが発生する。

瞬時を競って繰り出されるニュースのサイクルに、「待てよ」と反旗をひるがえす動きが発生している。「スロージャーナリズム」、あるいは「スローニュース」と呼ばれる報道である。

スロージャーナリズムの特徴は

基になっているのは、1980年代、イタリアで始まったスローフード運動だ。画一的なファストフードに対抗し、食生活や食文化を根本から変えていこう、自然なスロー(ゆっくり)に立ち戻ろうと提唱した。

スロージャーナリズムはこの流れをくんでいる。

この言葉を最初に使ったのは、英ローハンプトン大学で教えるスーザン・グリーンバーグ氏だったといわれている(2007年2月、英月刊誌『プロスペクト』の寄稿記事)。「調査に時間をかけ、ほかの媒体が見落とすようなトピックを見つけ、最も高い水準」で伝えるエッセー、ルポ、そのほかのノンフィクションを「スロージャーナリズム」と呼んだ。

この言葉自体は新しいが、物語風の長文ジャーナリズムはこれまでにも脈々と続いてきた。英語圏では米国の著名雑誌『ローリング・ストーンズ』『ニューヨーカー』『アトランティック』誌などの長文記事がよく知られている。

スロージャーナリズムには、確固とした定義はないが、その特徴はいくつかある。

1つは、グリーンバーグ氏の言葉どおり、調査に時間をかけ、1つの事件や事象を深く掘り下げることだ。たとえば、オランダの記者アーノルド・ファン・ブラッゲン氏と写真家ロブ・ホンストラ氏は、2007年から数年間かけて「ソチ・プロジェクト」を取材した。

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