元カレをストーカーにした50歳女性の言動 警察に突き出すなら感情で伝えてはいけない

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付きまといだと理解してもらうには、それなりの話し方がある。話の持っていき方がある。たとえば送られてきたメールや着信履歴を時系列で整理し、見せる。待ち伏せなどの行為があった場合は、いつ、どこで待ち伏せされたのか記録し、それを見せる。そのような事実を踏まえて、警察は動く。彼女のように感情的に話す人は、そういった事実をつい後回しにする。結果、仮に付きまといと認定できるものであったとしても恋人同士の痴話げんかだと思われてしまうのだ。

警察に相談する際にもう1つ重要なのは、どうしてほしいのか伝えることだ。付きまといをやめさせてほしいとだけ望む人もいれば、これまでの行為に対して処罰を求める人もいる。それに応じて、警察は動く。たとえば警察が相手に連絡し、付きまといをやめるよう警告することができる。彼女の話は、その部分もあいまいだった。不満や文句があるのはわかる。誰だって付きまとわれれば不愉快だ。恐怖を感じることもある。しかし、警察もつまりはお役所である。組織のルールに従って動く。感情に訴えかけるだけでは何も解決しない。

「事情はわかりました。それで相手にどうしてほしいのですか」

「とにかくさ、メールと電話をやめてほしいの」

「わかりました。では、警察に警告を出してもらうといいでしょう。ただし、そのためには警察での話し方というものがあります。それを教えますので、事実を整理して警察に相談してみてください」

「また警察? なんにもしてくれないのに? それじゃあここに来た意味がないじゃない」

彼女は不服そうだったが、私の説明を聞き、どうにか警察に行ってくれることになった。伝え方を変えれば警察の対応も変わる。警告を受ければ、大抵の人はおとなしくなるものなのだ。

インスタグラムから漏れ出す私生活

彼女が再びやってきたのは半年後のことだった。前回と同様、ソファにドスンと腰掛けて文句を言い始めた。彼女が警察に相談したことは確認済みだ。それで収まらなかったのだろうか。

「あれからしばらくの間は収まってたのよ。だから私も安心してたの。でも、1週間前からまた始まった。メールと電話よ。なんなのあの人」

「それは深刻ですね。そのメールを見せてもらえますか」

「これよ」

彼女はスマートフォンを取り出し、私に突き出した。確認した文面には男の哀愁が漂っていた。もう一度会えないか。あの店で食事しないか。そういったことが書いてあった。

「メールの中に『一緒に写っている男は誰だ』というのがあります。これは写真の話ですか?」

「ああ、インスタね。食事したりちょっとしたパーティに呼ばれたときの写真をインスタグラムに上げてるの。あの人、それをいちいちチェックしてるのよ」

ノートPCを開き、彼女と一緒にインスタグラムを確認した。確かにそこには、食事をしたレストランの写真や、パーティで誰かと写っている写真などがあった。楽しく、充実した生活がうかがえる。もちろん、それは本人にとって楽しいという意味で、男から見れば不愉快だろう。

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