日本のビール業界 キャッシュフロー生成能力強く、M&A投資負担が信用力を損なう可能性は小さい 《ムーディーズの業界分析》

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コーポレートファイナンスグループ
VP−シニア・アナリスト廣瀬和貞

 ムーディーズは、キリンホールディングス(Aa3、安定的)、サントリー(A2、安定的)、サッポロホールディングス(Ba1、安定的)の全国メーカー3社に格付けを付与している。

社名 格付け 見通し 2007年以降現在までに行われた
格付けアクション
キリンホールディングス Aa3 安定的 2008年2月にAa2から引き下げ
サントリー A2 安定的 2008年7月にA3から引き上げ
サッポロホールディングス Ba1 安定的 (2005年6月以降変更なし)
(アサヒビール)     (2008年1月に格付け取り下げ)
(2008年8月現在)

業界動向

 ムーディーズが格付けする日本のビールメーカーが主たる市場とする国内ビール類(ビール、発泡酒、およびいわゆる「第三のビール」)市場は引き続き需要が伸び悩んでいる。人口の伸びの鈍化もしくは減少、健康志向からの過度のアルコール摂取が敬遠される社会的な傾向等から、全体の販売数量が伸びない中で、各社グループは事業構成を整理し中核となる事業に経営資源を集中し、コストを適切に管理することで、利益率を伸ばしてきた。しかし、近年の原材料単価の高騰、シェア獲得を目指した新製品の発売のペースが上がってきたことから、各社の利益率の伸びは総じて鈍化している。

 一方で、原材料コストの上昇は近年続いているが、2007年までは各社とも、製品価格にそれを転嫁することはせず、事業の効率化やコスト削減によって対応してきた。しかし、2007年に至って、値上げなしには利益率を伸ばすことが困難な状況になりつつあることが明らかになった。こうした状況を受けて、ビールメーカー各社は今年の2月から、相次いでビール類の値上げに踏み切った。

原材料価格を転嫁するための値上げが、停滞する需要をさらに押し下げる

 製品の原材料の価格が上昇し続けていることから、それらの仕入れ価格の値上げは受け入れざるを得ない状況である。このため、ビールメーカー各社の収益は圧迫を受けている。こうした状況を受けて、国内ビールメーカー各社は、2008年に入り酒類卸業者への出荷価格を引き上げている。従って、ビール類の値上げで、ここ数年すでに停滞していた需要が一層冷え込む可能性が高い。

 このような環境下で、小売からの値引き圧力に対抗して利益率を確保するには、消費者から支持される強力なブランドを持つことが必要である。さらには、その強いブランドを幅広い商品カテゴリーに亘って揃えることで、消費者の嗜好の変化にも対応して安定した利益を生むことが可能となる。つまり、製品の高付加価値化、分散したブランドポートフォリオの構築、効果的な販売促進がいずれも必要である。
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