6月1日「内々定式」がハッキリ増えた就活戦線 囲い込みの一環、スケジュール固定化で拡大

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そもそも内々定とはなにか。経団連が定めた「採用選考に関する指針」や政府が経済界や業界団体に向けて出している要請文書には、「正式な内定日は、卒業・修了年度の 10 月1日以降」としている。そのためこの日まで正式な内定を出すことはできない。しかし、就活はかなり早くから進んでおり、10月1日まで内定を出さないでおくというのは、実質的にかなり難しい。そこで、内々定という、事実上の内定を企業が学生に出している。

実際に「6月1日に内々定式を行った」と打ち明けるのは、あるエンターテインメント企業の人事担当者。5月末に学生に内々定を出し、当日は担当役員が出席する「内々定授与式」や、内定者の交流会、人事主催の懇親会などを1日かけて行ったという。

売り手市場続くなら内々定式も拡大

「6月1日は一斉に面接や内々定が出されるタイミング。他社の最終面接などとバッティングするが、わが社への入社の本気度を確認するために開催した」(同社の人事担当者)。6月1日に他社の最終面接や内々定式といった会合に向かわせないように、学生を会社に引き留めておく機会をつくったわけだ。

採用コンサルタントの谷出正直氏は、「売り手市場である限り、内々定式が今後も続くと思われる。大手は6月1日の夕方に、中堅・中小企業は6月中旬以降に、行っていく可能性がある」と語る。囲い込みの策のひとつとして、来年以降も拡大すると予想する。

内々定式のメリットは物理的事情だけではない。大きいのは学生へのメッセージだ。学生を大事にしているという企業の姿勢を見せることができ、「わざわざ式典を開催してくれた」という気持ちを抱かせ、心理的に内定を辞退しにくくする効果をもたらす。「選考を通じて信頼関係がつくれていれば問題はないが、見せ方ややり方で多少の印象が変わるので、企業としては押さえておきたいセレモニーだ」(谷出氏)。

また、「内々定式があるから参加できますか?」と、やわらかい形で内定承諾を求めることができ、同時に他社への就活の終了を迫る”就活終われハラスメント(オワハラ)”を避けることもできるという。内々定式で同期となる人たちと顔合わせをしてもらい、お互いをフォローし合う環境をつくることで、内定辞退の防止につながる。

採用スケジュールが固定化される中、内定者フォローの一環として内々定式を活用する動きが今後も広がると思われる。ただ、一方で、「5月までに内々定を出し、6月1日は内々定のセレモニーの日」というような形になり、就活の早期化を助長する懸念もある。

10月1日が正式な内定日となっているのは、高校生の選考開始日が3年生の9月からというのもあるが、1990年代まであった就職協定のなごりという側面が強い。当時は大学4年生の10月まで内定が出せなかったが、それ以前に内定を出す企業が増えてしまったため、形骸化した。内々定式の浸透は6月1日の選考活動解禁日を形骸化させていく可能性がある。

建前と裏腹に既成事実化する内々定式。単に内定出し手続きが二段階化してしまうだけでなく、就活スケジュールそのものが、すでに形だけのものになっているのかもしれない。

宇都宮 徹 東洋経済 記者

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うつのみや とおる / Toru Utsunomiya

週刊東洋経済編集長補佐。1974年生まれ。1996年専修大学経済学部卒業。『会社四季報未上場版』編集部、決算短信の担当を経て『週刊東洋経済』編集部に。連載の編集担当から大学、マクロ経済、年末年始合併号(大予測号)などの特集を担当。記者としても農薬・肥料、鉄道、工作機械、人材業界などを担当する。会社四季報プロ500副編集長、就職四季報プラスワン編集長、週刊東洋経済副編集長などを経て、2023年4月から現職。

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