就活もマーケティングの範疇に入るのか コトラーが発明した「交換」、自分と社会との関わりを作り出す方法

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就活や転職への備えもマーケティングの範疇に

コトラーによる交換の発明は、おそらく当初の想像以上に大きな意味を持った。交換活動は、マーケティング論が前提とした、大規模メーカーに特有の活動ではないからだ。

非営利組織や公共組織が提供するサービスは言うに及ばず、僕たちの日々のコミュニケーションもまた、言葉の交換と考えれば、一種の交換と見なすことができる。ということは、日常のほとんどと言っていい領域に、マーケティングは関わることができる、ということになるのだ。

最近では、就活転職などに備えて、「セルフ・マーケティング」という言葉さえ登場するようになった。それが実際にどういうものなのかはよく知らないが、これとて、自分と社会との関わりを作り出し、お互いにとってより良い交換を実現しようとしている点では、しっかりとマーケティングの範疇に収まる。

今日、僕たちがマーケティングという言葉を知っていて、その方法を語ることができるのは、コトラーのおかげといえるわけだ。彼のことを知らずとも、僕たちはいつのまにか、彼の影響圏内にいる。

少しうまくいえば、テキスト編纂による普及を含め、コトラーこそ、マーケティングに対する需要を作り出していったマーケターだったのである。

 

初出:2013.7.20「週刊東洋経済(マッキンゼー学校

(担当者通信欄)

経営学部、商学部などで少しでもマーケティングを学んだことのある人なら、コトラーのテキストそのものでなくとも、入門書にしばしば登場する彼の名前を目にしたことがあるのではないでしょうか。

コトラーのマーケティング3.0』にはソーシャルメディア時代の新法則というサブタイトルがついています。教科書で見たことのある、この分野を切り開いた第一人者が、研究者として現役で、しかも年齢をものともせず、最先端の技術の可能性を探っているとなると、懐かしさ、驚き、色々なものがこみ上げてきます。

王道に、最先端に、テキスト。まだまだ、マーケティングのマーケティングにも余念がないということなのでしょうか。セルフ・マーケティング、セルフ・ブランディングについて書かれたビジネス書もちらほらと見かけますが、まずは本家コトラーに取り組んでみるのも面白いかもしれません。

さて、水越康介先生の「理論+リアルのマーケティング」、最新記事は2013年8月19日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、ネット保険&共済)」に掲載です!
【イクメンたちとパパ消費、新しい父親像に社会を見る】
「戌の日」をご存じでしょうか?年配の方や既に子供のいる夫婦なら当たり前のように知っていても、認知率は意外に低い言葉です。伝統行事ひとつを取り上げても、そこには新しい消費が生まれている、そんなところから見えてくる社会像を考えます。

 

 
マーケティングの基本から勉強してみたい人のために!専門用語に混乱しない、親切設計の入門テキスト。水越康介・黒岩健一郎『マーケティングをつかむ』(2012年、有斐閣)
 
 
企業や市場の潜在性を掘り起こすための新しいマーケティング概念を提示!京都花街、マルちゃん鍋用ラーメン、はとバス、ロック・フィールド……水越康介・栗木契・吉田満梨/編『マーケティング・リフレーミング』(有斐閣、2012年)


 

水越 康介 経営学者

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みずこし こうすけ / Kosuke Mizukoshi

1978年生まれ。2000年神戸大学経営学部卒業、2005年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。2005年より首都大学東京、同大学院研究員を経て、2007年から首都大学東京大学院 社会科学研究科 経営学専攻 准教授。専攻はマーケティング論、商業論、消費者行動論。学術分野のほか、民間シンクタンクでの研究活動などを通して、新しい価値の創造を目指す。教育活動として、ユーザー参加型製品開発プロジェクト「Sカレ」の参加学生指導などにも力を注ぐ。著書に『企業と市場と観察者――マーケティング方法論研究の新地平』(有斐閣、2011年)、『Q&A マーケティングの基本50』(日本経済新聞出版社、2010年)、編著に『マーケティング・リフレーミング――視点が変わると価値が生まれる』(有斐閣、2012年)、『仮想経験のデザイン インターネットマーケティングの新地平』(有斐閣、2006年)、共著に『マーケティングをつかむ』(有斐閣、2012年)、『病院組織のマネジメント』(硯学舎、2010年)、『ビジネス三國志 マーケティングに活かす複合競争分析』(プレジデント社、2009年)、『マーケティング優良企業の条件 創造的適応への挑戦』(日本経済新聞社、2008年)。 ⇒【Webサイト】【Twitter(@mizkos)

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