就活もマーケティングの範疇に入るのか コトラーが発明した「交換」、自分と社会との関わりを作り出す方法

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マーケティングの普及、そして「交換」の発明

テキストの編纂自体は、しかし研究者らしい業績とはいえないかもしれない。先のドラッカーが「マネジメント」を発明し、ポーターが「ファイブ・フォーシズ」に代表される競争戦略論を考案し、クリステンセンが「イノベーターズ・ジレンマ」を示したことに比べると、コトラーの発明は見えにくい。この辺りが、彼の知名度に関係するのかもしれない。

しかし、あえて一言。コトラーの重要な発明は「交換」である。

多くのマーケティング関係者が、フィリップ・コトラー氏の話に聞き入った(写真提供:日本マーケティング協会)

コトラーは、マーケティングを交換の実現として示したのだ。ここで交換が意味するのは、win-winの取引を行うということだ。

当たり前のように思えるが、交換が実現するためには、売り手と買い手の双方が、手放すもの以上の対価を得られなくてはならない。

この発明は、二つ目の研究、公共・非営利組織をはじめとするソーシャル・マーケティングについての研究に関わる。

1970年代にコトラーを中心に行われた、マーケティング論の公共組織や非営利組織への応用である。先に、コトラーとドラッカーの対談を紹介したが、そこでも中心的な話題は、マーケティングを非営利組織に生かすことができるのかどうかという点にあった。

今でこそ、マーケティングという言葉や考え方は、さまざまな領域で用いられる。しかし、もともとマーケティングは、大規模メーカーに特有の活動だと 考えられてきた。かつて重視されたのは、マーケティングというよりは生産や販売であり、交換というよりもメーカーによる一方向的な活動だったのである。

だが、時代の変化の中で、僕たちが今よく知るように、企業や組織の多くが、顧客のことを考え、期待に応えようとするのは、当然と考えられるようになってきた。コトラーは、この変化をいち早く感じ取り、マーケティングの方法を新しい組織に応用することを主張したのだった。

この主張は、すんなりと受け入れられたわけではなかった。そんな拡張をしてしまうと、マーケティングとは何かということが、逆にわからなくなってしまうのではないかと多くの研究者は危惧したのである。

激しい論争の中で、コトラーの主張は、単なる応用や拡張というアイデアにとどまらず、マーケティングを理論として抽象化する方向に進んだ。これこそが、マーケティング活動を交換の実現と見なす発明や再発見につながった。

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