英タワマン火災は、なぜ大惨事になったのか 火災で露呈した低所得者層向け住居の実態

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「どこにスプリンクラーがあったのか。炎が建物を覆っているのに、どうして住民は部屋の中にいるよう言われていたのか。住民組織が安全性への懸念を書いたのは昨年の11月だ。誰も聞いてくれなかった」。

ケンジントン・チェルシー地区には豪華高層ビルがどんどん建設されている。「もちろん、スプリンクラーもついているし、壁は防災だし、火災時の避難設備もある」。コラムはこう終わっている。「貧しい人は置いてきぼりにされている。危険な状態のままに置かれている」。

「企業による殺人が行われた」

15日朝のBBCのラジオ番組「トゥデー」に出演したラミー議員は「企業による殺人が行われた」とまで述べた。「責任者は逮捕されるべきだ」。

ガーディアン紙によると、地元の選挙区を代表する労働党議員エマ・デント・コード氏は、タワーにいた被災者がこの地区から追い出されてしまうのではないかと危惧する。コミュニティとは切り離された、遠く離れた地域の住宅に移動させられるのではないか、と。

デント・コード議員は6月上旬の下院選で当選したばかり。グレンフェルタワーから数分の場所に住み、個人的に住民を知っている。

行政府は「ソーシャル・ハウジングが劣悪でも誰にもとがめられないだろうと高をくくっている」とデント・コード氏は言う。「もっと市民の声に耳を傾けるべき」。住民の安全性への懸念にもっと耳を傾けていたら「火災を防ぐことは可能だったと思う」。

グレンフェルタワーを訪れた後、ラティマー・ロード駅に戻って、プラットフォームに入ると、涙をしきりにふいている女性がいた。彼女の視線の先を見ると、真っ黒で巨大なグレンフェルタワーがある。近辺にはグレンフェル・タワーそっくりの高層 住宅がいくつか見えた。緑の多い住宅地にポツン、ポツンとタワーがそびえていた。

住宅価格が高騰し、元々いた住民が住めなくなりつつあるケンジントン・チェルシー地区。低所得者の住民はスプリンクラーがない高層住宅に押し込められ、火災で命を落としたのである。

メイ首相はこの日現地を訪れ「徹底的に原因を究明する」と述べている。原因を究明したあと、政府はどのような対策を打つのだろうか。しばらく注目を集めることになるだろう。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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