安倍政権は再び財政拡大策に踏み切るか 「骨太の方針」から垣間見える積極財政への道

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投資家の立場で経済政策を考える筆者も、スティグリッツ教授の提案は、現在の日本経済の状況を踏まえれば理にかなったものであると考える。完全雇用に至らない総需要不足が続き、デフレ脱却の途上にある日本経済の正常化を後押しすることは必要、と筆者は判断している。

インフレ目標実現のために粘り強く金融緩和政策を続けることは当然だが、さらに拡張的な財政政策による成長押し上げ手段を考えるのは、理論的に考えればごく自然である。

また、このスティグリッツ教授の提案は、アデア・ターナー氏のヘリコプターマネー政策の提案と共通する部分がある。「ヘリマネ」というフレーズは劇薬であるかのように日本のメディアでは伝えられることが多いが、米欧の経済学者の中ではその有効性が真剣に議論されている。

また、弊社(アライアンス・バーンスタイン社)の中でもヘリマネ政策の実現可能性とその影響を予測することが、最もホットな議論のテーマのひとつである。ヘリマネ政策は、政府部門と中央銀行を合わせた統合政府の枠組みで財政・金融政策をより拡張的に作用させることで、成長率を高め2%程度のインフレ安定を実現させる有効な手段と位置づけられる。

「骨太の方針」に垣間見える、政権の財政策の可能性

6月9日に閣議決定された2017年の骨太方針では、財政健全化の目標として2020年度までのプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化だけではなく、債務残高対GDP比率引き下げの方針が明記された。この政策目標が追加されたことについて、いくつかの解釈が考えられる。

ひとつには、「名目経済成長率>名目金利」の状態を長期化させることで、財政黒字に至る前に、債務比率低下を実現することを政策オプションとすることである。これは2019年の消費増税についての判断や、教育関連支出拡大など、財政政策の選択肢を広げることを意味するとみられる。さらに、先に紹介したスティグリッツ教授が提案する、日銀保有の国債の取り扱いを変更するプランが、政府債務残高の目標設定に影響している可能性がある。2016年央に実現した補正予算増額は大規模とされているが、実際には2017年のGDPに対する押し上げ効果は限定的である。

それ以降の安倍政権の経済政策への姿勢をみれば、今後、経済成長率を一段と押し上げる本格的な財政政策が発動される可能性があると筆者は考えている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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