「親がやらせたいこと」に潰される子どもたち 嫌々やり続けると自己実現できない人になる

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Aさんはもともと消極的で友達も少なく、授業で発表することもありませんでした。片付けが苦手で、朝も遅刻ぎりぎりで登校してくるような子でした。それまでは、朝お母さんに起こされてもなかなか起きなかったのですが、毎朝自分で起きて、かなり早く学校に来るようになりました。なぜなら、絵を描いてもらいたい子たちがほかのクラスからも来るようになって、休み時間だけではさばききれなくなっていたからです。

友達もたくさんでき、生活全体に張り合いが出て、毎日明るく楽しく生活できるようになりました。しばらくしたら授業中に発表するようにもなりました。絵のことで自信がついて、いろいろな面で好循環が始まったのです。

これが5年生のときですが、6年生になってしばらくしたら、Aさんは絵をあまり描かなくなりました。そのことを聞いてみると、「絵は飽きちゃった。今は手芸がいちばん好き」とのことでした。私は「やっぱり子どもだなあ」と思いました。子どもは、好奇心旺盛でいろいろなことに興味を持ってやってみたくなるものなのです。彼女は、すでにそのときは手芸に熱中していて、休み時間には5、6人の女子が1カ所に集まって手芸の小物づくりに没頭していました。お母さんは、最初は抵抗があったようですが、潔く絵のことはあきらめて、手芸のことを応援してくれました。

そんなある日、彼女は小学生新聞を読んでいて、手芸の小物をPTAバザーで売るというアイデアを閃(ひらめ)きました。それで、友達を誘って役員さんに頼みに行き、許可を得ました。バザー当日も「いらっしゃい。いらっしゃい」と声を張り上げて売りまくり、収益金を福祉団体に寄付しました。この一連の過程を、すべて彼女がリーダーになって実行しました。数年前なら考えられないことでした。これくらい子どもというものは変わることがあるのです。そのきっかけは、大好きな絵をお母さんが応援してくれて、絵のことで自分に自信が持てるようになったことです。

建築士・Bさんの場合

次は、講演先で知り合った建築士・Bさんのお話です。Bさんは、子どものころ、上杉謙信の歴史マンガを読んでとても面白いと感じ、それからは戦国時代の歴史マンガばかり読むようになりました。両親も応援してくれて、戦国時代の歴史マンガを図書館で借りたり、書店で買ってくれたりしました。しかも、たくさん! やがて、戦国時代の本ならマンガ以外の本も読むようになり、有名な戦国武将100人について、名前と幼名、領国の名前、得意な戦法、有名なエピソードなどを覚えてしまいました。

両親の応援も熱が入り、各地の城や博物館に連れて行ってくれるようになりました。城をたくさん見ているうちにその美しさにひかれ、城の本を読むようになりました。それで、有名な城の名前、場所、特徴、領主の名前などをたくさん覚えました。やがて城の石垣に対する興味が高まり、石の積み方について調べるようになりました。日本の城だけでなく、中国の城、マヤ文明、インカ文明、エジプトのピラミッドなどの石の積み方も比べて面白かったそうです。

次に、城の模型を作るようになり、それがきっかけで建築一般に興味を持ち、とうとう建築士になりました。もともと、いわゆる勉強は嫌いで成績も振るわなかったのですが、建築士になりたいと思ったとき急にスイッチが入り、どの教科も頑張って勉強するようになったそうです。

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