MBAが教える「いつも決断を誤る人」の3特徴 「意思決定の罠」を避け、バランスをとる方法

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こうした落とし穴にはまらないためには、バランス良く情報を整理できるビジネスフレームワークを多数身に付けることと、ピュアな視点から自分の思考の偏りを指摘してくれる知人を持つことが有効です。前者はまさにMBAで学ぶことであり、後者は先述した良き人的ネットワークと重なることが多いものです。

また、ここでも「自分の視野や思考は偏っていないか?」と自問する批判的思考は有効です。加えて、自分を一段高い次元から眺める冷静さやメタ思考も意識すると効果はさらに上がります。

一方、価値判断(判断基準)のバランスの悪さは多少厄介です。なぜなら、何が適切なバランスなのかは個人の価値観によって異なるからです。

たとえば、翌日にそれまでの人生で最も大事なプレゼンテーションを控えたタイミングで夫や妻が大ケガをしたとき、そのプレゼンを誰かに代わってもらったり相手に延期をお願いするか、それとも妻や夫はいったん人に任せて仕事に向かうかという問いに、万人向けの正解はありません。

それ以外にも、短期的成果重視でいくのかそれとも長期的成果重視でいくのか、実利重視でいくのか規範重視でいくのかなど、単純に「apple to apple」の比較ができないケースは多々あります。

これを乗り越える手っ取り早い方法はないのですが、ヒントを挙げるとしたら、過去のビジネス事例に学ぶことはもちろん、歴史などのリベラルアーツに触れること、日常から多様な人々と対話すること、自分なりの判断軸をしっかり持つことなどが、悔いの残らない意思決定につながります。つまり、一般的な常識ラインを知りつつ、自分らしさと折り合いをつける意識や姿勢が大事なのです。

感情やバイアスの虜にならない

落とし穴のその3は、感情やバイアス(思考の歪み)の虜になることです。

たとえば一時の感情で何かを決めたり言ったりしてしまったものの、一晩考えたらそれは賢明ではないことに気づいた、という経験は皆さんお持ちでしょう。そこで「君子豹変」できればいいのですが、中には、それが好ましくない意思決定であることをわかりつつ、妙なプライドやバイアスが邪魔をして翻意できないというケースも多いものです。

人間には一貫性を維持したいというバイアスがあります。「一度言ったことを翻すと信用できない人間と見られる」と考え、いったん取った立場にこだわってしまうのです(立場固定とも言います)。

例として、相手の依頼の仕方に不快感を覚え、「この仕事を私は引き受けない。なぜなら……」などと大見えを切ったシーンを想定してみましょう。

これが単に「嫌です」と言ったくらいなら、すぐに翻意することに抵抗感はないかもしれません。しかし、根拠までつけて拒否してしまったら、それを全否定するのは心情的に難しくなります。そうしているうちにも時間がたって立場固定が進み、ますます翻意しにくくなるという悪循環に陥ってしまうわけです。

人間である以上、感情に左右されますし、バイアスからは逃れられません。だからこそ、重要な意思決定は感情が高ぶっているときにはしない、あるいは、典型的なバイアスを知り、客観的に自分を眺めてそれに陥っていないかを確認するという基本が非常に大事になるのです。

また、自分の人生の成功は、一時のプライド維持ではなく、長期にわたる信頼獲得によってこそ得られるということは再確認したいものです。

嶋田 毅 グロービス経営大学院教授、グロービス出版局長

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しまだ つよし / Tsuyoshi Shimada

グロービス経営大学院教員、グロービス出版局長。東京大学理学部卒業、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。著書に『MBA 100の基本』『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』『KPI大全』(以上東洋経済新報社)、『グロービスMBAミドルマネジメント』(ダイヤモンド社)など。経営戦略、テクノベート・ストラテジー、研究プロジェクトなどの講師を務めるほか、各所で講演なども行っている。

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