福岡の難病男性が「人とITの力」で見つけた夢 「原発性側索硬化症」との闘いを支えるもの

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病気で歩行が困難になっても、積極的に出かけてさまざまな人と交流する落水洋介さん。ベンチャー企業「WHILL」の電動車いすを使っている(撮影:長﨑辰一)
PLS(原発性側索硬化症)という病気をご存じだろうか。100万人に1人の確率で発症する、非常にまれな神経系の難病だ。全身の筋肉がだんだん動かなくなり、話すことが困難になり、やがて自力呼吸もできなくなる……。頭脳や精神はしっかりしているのに、自力では何もできなくなってしまう過酷な病である。今のところ、病気の進行を止めたり治癒したりできる治療法はない。
福岡県北九州市に住む落水洋介さんは、2013年にPLSを発症。当時、子どもは1歳と4歳で、安定したインフラ系の会社に転職したばかりだった。4年経った今、歩くのは困難になり、快活だった話しぶりはかなりゆっくりに。それでも夢を持ち、電動車いすに乗って、積極的に講演やボランティア活動に出かけている。そこには応援してくれる人たちとの出会いがあった。
もともとは、かなりのスポーツマンだった落水さん。小1で始めたサッカーは、高校生まではプロになりたいと思うほどの技量だった。昨年4月、サッカー元日本代表の大久保嘉人選手(現・FC東京、当時は川崎フロンターレ)が、試合でゴールを決めた後に「落水洋介負けるな」と書かれたTシャツを掲げたことを複数のスポーツ紙が報じた(日刊スポーツ・コム「川崎F大久保『負けるな』闘病中親友に贈るゴール」)。小学校時代、落水さんと大久保選手は北九州市の選抜チームで一緒にプレーしていたからだ。

 

そんな落水さんが体調の異変に気づいたのは、30歳のときだった。

「何となく歩きづらい気がしたんです。じわじわ変化しているような、でも気のせいかなと思ったり」

当時、落水さんにはPLSに関する知識はなかったが、全身の筋肉が衰えていくALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病があることは知っていた。ちょうどその頃、主人公がALSになるテレビドラマ「僕のいた時間」(フジテレビ系)を観ていたからだ。

家族に歩き方の異変を指摘されて病院へ

「オレとめっちゃ一緒やん、と驚き、ネットで調べまくって、オレはALSだなと勝手に思ってました。とにかく最悪の結末ばかりが頭に浮かび、暗闇のどん底で……。家族に『なんか歩き方がおかしくない?』と言われ出して、さすがに病院行かなきゃと。異変を感じて1年近く経っていました。今、振り返ると、自分で気づかないふりをしていたのだと思います。地元の会社に転職して、やっと家族で安心して暮らせると思った矢先でしたから」

2週間検査入院して、痙性対麻痺(けいせいついまひ)という症状名がわかった。しかし病名はつかず、「ALSではない進行性の病気だろう」と告げられた。落水さんには専業主婦の妻と子どもがいる。病気のつらさより、先の生活がいちばん気がかりだったという。

「症状が悪化しても、生活するためにできるところまで粘って働こうと決意しました。営業から事務に変わり、何とか認めてもらおうと必死でした。味方してくれる同僚もいたけど、一部の人の理解を得ることができず、最終的には退職するしかなかった。昨年1月のことです」

PLSと診断されたのも、退職とほぼ同じタイミングだった。PLSは、ALSと症状は似ているが、より進行が遅い病気だ。日本で100人ほどしかおらず、40代後半以降の発症が大半のため、落水さんのケースは珍しい。

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