築地移転延期で頓挫した「ネズミ対策」の中身 有効な対策はちゃんとある

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ネズミによる被害で最も恐ろしいのは感染症だ。かまれたり触ったりすることで直接感染するだけでなく、ネズミの糞尿が飲み水や食品を汚染して口から病原体が取り込まれる危険性もある。近年は被害報告はほとんどないが、急性熱性疾患や、腎症候性出血熱などを発症する恐れがあるという。

日本国内には18種類のネズミが生息しているとされ、このうち都市部で問題を引き起こすのは、ビルの内部や高所、天井裏などに生息する体長15~20センチほどのクマネズミと、下水管や植え込みなどに生息する体長22~26センチほどのドブネズミ。築地市場内外に生息しているのは専らドブネズミである。

住環境としては最適

築地の、特に場内のネズミの現状はどうなっているのだろう。『ネズミに襲われる都市─都会に居座る田舎のネズミ』(中公新書)などの著書がある「ねずみ駆除協議会」会長の矢部辰男さんは、築地市場で実態を調査したことがある。

排水溝も穴だらけで、ノコギリで削ったマグロのカスなどエサが豊富なうえ、段ボールや発泡スチロールの箱が山積みで、営巣できる隙間や材料がそこらじゅうにある。

「ドブネズミの住環境としては皮肉なことに最適です。業者を入れて駆除はしているものの、わなは主に通路にしかかけられないなど制限が多く、効果的ではないんです」(矢部さん)

老朽化した開放型市場の限界なのか。しかし、豊洲など新天地の密閉空間に移動すれば、ネズミに悩まされることがなくなるとは言えないのが実情だ。

矢部さんは言う。

「最初のうちはネズミはいないでしょうが、たちまちすみ着いて同じことの繰り返しになると思います。特にドブネズミは泳ぎが得意で水がへっちゃらなので、排水溝をよほどしっかり作らないと」

一方で矢部さんは、築地のドブネズミには有効な対策があると続ける。

「ドブネズミはクマネズミのように警戒心が強くない。わなにもかかりやすく、クスリも食べてくれます。仮に移転するとすれば、荷物をガタガタ動かすなどの移転準備を始める前に、少しでも周辺への分散を防ぐ対策を講じる必要がある。クスリを十分に使って死体さえきちんと回収すれば、効果的な駆除ができるはずです」

東京五輪が開かれる2020年はネズミ年。それまでに、行政には抜本的なネズミ対策も講じてほしい。

(編集部:大平誠)

AERA 2017年6月19日号

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