「自動運転なんて必要ない」と考えている人へ ベンツで未来研究を行う社会学者に聞く

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これらは自動運転という未知の技術を獲得したクルマが備えておくべきものの一例といえるだろう。人間と機械はどう対話すべきなのか。HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)に唯一無二の正解は存在しない。マンカウスキー氏は「自動化にあたって、何を自動化すべきで何を自動化すべきでないか考えなければならない。人間ならではの創造性や共感といった部分は自動化すべきではない。自動化すべきは単純作業や複雑な作業、それに反応時間の短さが要求されるような作業だ」と語る。

AIと人間の脳の根本的な違い

自動運転に欠かせない技術はAI(人工知能)である。現在は第3次AIブームといわれる。AIがチェスでプロに勝利したのは1997年のことだが、今年、より複雑とされる囲碁でもついにAIが勝利した。第3次ブームの特徴は深層学習(ディープ・ラーニング)や機械学習の進展だ。

例えば、従来のAIは膨大な猫の画像をインプットした後、人間が”猫にはこういう特徴がある”と条件を入力して初めて新しい画像が猫の画像かどうかを判定できた。これに対し、現在のAIは膨大な猫の画像をインプットした後、AI自らが特徴を抽出して理解し、その特徴をもとに新しい画像が猫の画像かどうかを判定することができる。これは人間の赤ん坊が猫とは何かを学ぶのと同じプロセスだ。

「だからといってAIを過度に人間になぞらえるべきではない」とマンカウスキー氏は警告する。前述したように、F015はレーザーライトなどを使って自らがどういう動きをしようとしているのかを周囲に発信する。F015に道を譲られた歩行者は会釈を返すかもしれない。けれど、そうしたF015の動きは人間のドライバーが歩行者に道を譲るのとは本質的に異なる。

「クルマはあくまでも機械であって、ものを考えているわけではない。自主的には何もせず、ある条件のもとで同じ動作を繰り返すだけ。人間は相手の心や文章の行間を読むが、AIにはそれがないことを私たちは認識しておかなければならない」「現在の技術はそうでも、将来AIが他者の心や文章の行間を読むようになる可能性はないのか?」とマンカウスキー氏に尋ねると、答はNOだった。「確かに処理速度はどんどん上がるだろうが、コンピューターの計算はステップ・バイ・ステップなので、人間の脳とはプロセスが異なる。人間の脳は意識と無意識を並行して処理する。ニューロ・サイエンス(神経科学)の世界では”無意識な意識(アンコンシャス・コンシャスネス)”として知られている。この部分がコンピューターには不可能なのだ」と。

無意識な意識とは、言い換えればひらめきだ。アイデアに行き詰まって、気分転換していると解決策がひらめいたという経験はだれにでもあるはずだ。しかしそれは素晴らしいアイデアが天から降ってきたからではない。人間の脳はひとつのことを考えているときに潜在意識で別のことも考えていて、そちらで解決策を思いついた場合にひらめきとしてアウトプットされる、といわれている。

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