「解雇の金銭解決」が労働者には不利な理由 使用者側が低コストでクビにできる仕組みだ

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(7)使用者から解決金が支払われるメカニズム

当然のことながら、解雇は正当であると考えている会社側(使用者)にとっては、労働者の請求に応じる理由も必要もない以上、解決金なるものを労働者側にわざわざ支払おうとは思わない。

金銭解決は、話し合いによって使用者側へ任意に金銭を支払わせることで初めて成立することから、使用者が金銭を支払うための誘因を考えなければならない。

ここでまず前提となるのが、裁判所において解雇が無効と判断される(使用者にとっての)リスクである。

「裁判所での解雇が無効と判断されたら、それまでの賃金を支払わなくてはならないだけでなく、今後も労働者の地位にある以上、賃金を支払い続けなければならない」

使用者側が経営判断として行った解雇が不当解雇として無効とされてしまうと、使用者側は辞めてほしいと考えている労働者を辞めさせることはできずに賃金を支払い続けなければいけないという(使用者側にとっての)「リスク」を負うことになる。

このような状況下に使用者側がいわば「追い込まれて」初めて金銭解決の前提がそろうことになる。

つまり、「裁判所の判断で解雇が無効とされてしまった場合のリスクを考えたら、一定の金銭を支払ってでも労働者に退職してもらいたい」という金銭解決に向けたインセンティブが使用者側に生じる。ここで「本来は辞めるつもりはない労働者」と「本音では辞めてほしいと考えている使用者」との間で金銭解決の場合の解決金の金額が交渉によって定まっていくことになる。

そして、その際の解決金額を決める要素は、解雇の不当性(違法性)の程度、裁判所によって解雇無効の判断をされる可能性、労働者側の職場復帰への意思の強さ、使用者側の早期解決の必要性等といった事情や、双方の交渉における態度などといったもろもろの事情が複雑に影響し合って、最終的に一定の金額で和解の解決に至る。

次ページあえて解雇の金銭解決制度を導入する意味とは
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