神宮球場をトコトン盛り上げる名脇役の実像 パトリック・ユウは挫折を乗り切り悟った

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――そうして、偶然のチャンスを着実に掴む準備をしていく。

パトリック氏:今年で10年目になる、東京ヤクルトスワローズ、神宮球場のスタジアムDJのお仕事も、偶然のタイミングで掴んだチャンスのひとつでした。あと少し、タイミングがズレていたら、もし「やらせてください!」と手を挙げていなかったら、ぼくはもしかしたらDJという職業すら続けてこれていなかったかもしれません。

この10年間、東京ヤクルトスワローズではスタッフの皆さんと、いろいろなチャレンジをさせてもらいました。客席にブースを設けて、「外に出る」アナウンススタイルも、後からできあがったもので、最初は普通に場内ブースで普通のアナウンスだったのを、いかに臨場感を観客に伝え、一緒に高揚感を分かち合えるかを考えた結果生まれたものなんです。

スポーツDJの「不変」を作り続けてゆく

パトリック氏:もし誰か今、「第一志望」の道を歩んでいないと思っていても、決して諦めないで欲しい。自分が今歩いている道で、できることがあるんだということをお伝えしたい。夢の叶え方はひとつではないと思うんです。夢はダイレクトに叶わなくとも、自分の得意とする別の道、もしくは与えられた環境の中で、夢に近づくことはできるんじゃないでしょうか。日本におけるスタジアムDJの文化は、まだ深くはありませんが、ぼくが楽しみながら仕事をする姿を見てくれることで、スポーツが好きな子どもたちの、夢の職業の選択肢のひとつになればいいなとも思っています。

――これからもパトリックさん自身が楽しみながら、最前線に立ってファンの皆さんと一緒に盛り上げていく。

パトリック氏:こと神宮球場でのスタジアムDJのお仕事は、ファンの皆さんと築きあげてきたもの、自分だけの仕事じゃないという感覚があります。野球をはじめ、スポーツ観戦においてDJは主人公ではありません。あくまで、裏方で、主人公は観客と選手です。では、なぜ存在するのか。その意味を考えることで、自分が観客の皆さんにできることが見えてくるんじゃないかと思っています。ぼくの、東京ヤクルトスワローズでのスタジアムDJのユニフォームとしていただいている背番号はパトリックで「810」。選手と観客を繋ぐ気持ちで臨んでいます。

ちょうど10年目、節目の年ということもあり、ひとつの目標があります。それは、変わらない自分のスタイルを確立すること。あえて変わらずに、「自分オリジナル」の形を維持することです。例えば神宮球場に来るお客さんは、ほぼ毎回の方もいれば、年に1回の人もいて、はじめて訪れる人も当然います。そういう人たち皆さんが楽しめるDJでありたいと思っているんです。そして「神宮球場に行けば、パトリックの声が聞こえる」「ああ、帰ってきたな」「神宮だな」と思っていただける、そんな懐かしいと感じていただける「声」を、これからも出し続けていきたいと思います。

(インタビュー・文/沖中幸太郎)

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アルファポリスビジネス編集部

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