トランプはパリ協定離脱の正義を信じている 「核の脅威こそ究極の地球環境問題だ」

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その段階では、トランプ候補がまさか勝つとは、環境問題専門家の間では誰も考えていなかっただろう。トランプ陣営の中でも勝利を確信していた人は、いったいどれほどいたか。トランプ候補自身、すでに「パリ協定」からの離脱を宣言してはいたが、それは炭鉱労働者など環境規制に反対する選挙民の票を意識してのものだった。

まさか、その選挙公約を世界中の非難ごうごうのなかで実施することになるとは思いもしなかったろう。しかも、「核の脅威こそ究極の地球環境問題」という反トランプのメッセージを逆手に取って、最終的に「パリ協定」離脱へと政権の内部固めをするとは考えもしなかったに違いない。

環境規制に対する根強い反対派の存在

トランプ氏に地球温暖化問題以上に重要な環境問題を意識させたのは、バラク・オバマ前大統領の「命懸けの引き継ぎ」だった。昨年11月8日の大統領選に勝利した2日後に2人は初めてホワイトハウスで会った。その初会合で引き継がれた最高機密情報の1つは、北朝鮮問題だった。トランプ氏の北朝鮮に対する姿勢が一変したのは、そのときだ。

トランプ氏が「もはや北朝鮮を放置するわけにはいかない」という強い姿勢に転じたのは、その引き継ぎがあったからだ。この「命懸けの引き継ぎ」については、本欄の「北朝鮮『暴走』を封じた勇猛な将軍たち」で詳述した。

その引き継ぎからほぼ1カ月後の12月初旬、トランプ次期大統領は米国環境保護局(EPA)長官にスコット・プルイット氏を指名した。オクラホマ州の司法長官を務めたプルイット氏は、石炭産業の代理人であり、「パリ協定」離脱の主唱者でもある。2年前、オバマ政権の環境規制に真っ向から反発し、規制反対派27州による集団訴訟をリードした中心人物だ。

プルイット氏のEPA長官就任が、米議会上院で承認されたのは2月17日、賛成52票、反対46票という際どいものだった。アメリカ国内では、共和党、民主党を問わず、環境規制に反対する州が過半数も根強く存在することを物語る。

ただ、その反対派のすべてが、国際的な枠組みの「パリ協定」離脱を支持しているかどうか。トランプ政権内部でも、意見は分かれていた。

「パリ協定」をめぐるホワイトハウス内部の会合に参加した主軸メンバーは、スティーブン・バノン主席戦略官・上級顧問、プルイットEPA長官、レックス・ティラーソン国務長官、イヴァンカ・トランプ補佐官、ジャレッド・クシュナー上級顧問の5人だった。そのうち、バノン氏とプルイット氏の2人は「パリ協定」離脱を支持していたが、ティラーソン氏、イヴァンカ氏、クシュナー氏の3人は「パリ協定」残留派だった。

その会合が行われた時期は、ホワイトハウス内の権力闘争で、バノン氏が劣勢に回っていた。一方、クシュナー氏は、その名前が「ロシアゲート」絡みで登場する前であり、サウジアラビアとの取引で大活躍するなど、内部権力闘争ではバノン氏をしのいで断然優勢だった。

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