日本人が「嫌われる勇気」を持つと陥る事態 「承認欲求」を持つのは悪いことではない

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実際、私が日頃受けている悩み相談のうち、9割は人間関係のお悩みです。相手に受け入れられない苦しさや、何としてもわかり合いたい願いを切に訴えられることも多くあります。それは、相手が上司でも部下でも、友人でも恋人でも家族でも尽きない思いです。

たとえ占いを頼ってでも、相手の気持ちを確かめたいと思うのも、「モテテク」や「デキル○○、デキナイ○○」など、相手からの評価を主軸とするネットニュースに飛びつくのも、私達が相手からの評価を問題としていることを顕著に表していると思います。

人間関係に悩み、折り合いをつけていくのも醍醐味

かといって、あえてそれを覆すように「嫌われてもいい」と思うのでは本末転倒です。人との関係に気を配り、時に相手を優先して自らを抑え、その中で自分の思いをどうやって伝えていくか。その折り合いをつけていくのも人間関係を育んでいくうえでの醍醐味ともいえます。

もっとも、追いつめられて「こんなに我慢するくらいなら、いっそ嫌われてもいい」と思うことはあるでしょう。ただ、それはあなたの本来の思いではなく、それ以上苦しまないための自己防衛なのです。

人との輪を保っていくうえでは、力関係や立場によってかかわり方を変えても、それぞれの場面で自分の意思を柔軟に変えても良いのです。

たとえば、サザエさんを例に挙げてみましょう。彼女は、娘であり、妻であり、母であり、姉であるというように、家族の中だけでも4つの顔を持っています。日本の社会の中では、場合によって顔を使い分けていくことが必要なのです。偽りの自分を「演じる」ということではなく、その時々で違う自分の面を出せるということです。そして、4者4様に相手に好かれることが大前提です。その関係性は、つねに対等である必要はなく、時に上下関係や依存関係であってもよいのです。

こうしてお互いに足りない部分を補いながら、和を重んじる集団の中では、誰にでも対等で自信満々に自己主張できる人は排除される傾向にさえあります。

自分のやることや思いに確固たる意志があれば、人からどう思われても構わないという思いが生まれてくることもあるでしょう。しかし、本当に嫌われてもいいという行動を起こせば、自己中心的になり、集団の中で生きにくくなります。

「認められたい」「愛されたい」という気持ちは、自然な欲求です。すれ違い、ぶつかりながらも、歩み寄っていくプロセスこそ大切なのです。そのほうが楽だから、面倒だからという理由で、その欲求を排除してしまっては、人との関係性を深めることはできません。

最近は、プライベートを重視するあまり、定時になったら何が何でも帰宅する、会社の飲み会に参加しない、傷つかなくていいように誰とも深く付き合わない、といった傾向が強くみられます。しかし、こうして割り切ることが良いこととは限らないのです。共に時間を過ごすという行為は、それだけで居場所を確保することにもつながります。

以上のように、文字どおりの「嫌われる勇気」を持ってしまうと、自立した対等な関係性を保ちつつ、周りとうまくやっていくスキルを身に付けるどころか、単にわがままなイタい人になってしまいます。十分に気をつけましょう。

大野 萌子 日本メンタルアップ支援機構 代表理事

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おおの もえこ / Moeko Ohno

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)がある。

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