医学部に9割が進める「医大付属高校」の実情 学費は大学卒業までの9年間で6000万円超

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とはいえ、誰もが附属校に入学できるわけではない。最大のネックは学費だ。高校3年間でかかる学費は寮費を含めて1550万円と高校の学費としてはかなり高額。さらに内部進学先である川崎医大の学費は全国で最も高い4550万円。9年間の合計は6100万円と、一般家庭の財布では厳しい金額となる。生徒のほとんどは学費が支払える医師の家系で、とりわけ開業医が多い。両親が川崎医大や附属校の卒業生、という生徒も少なくない。

進学後の留年率は一般入試生より高い

加えて、大学進学後に苦労する附属校生もいるようだ。大学では受験戦争を乗り越えた一般学生と同じ土俵に立つことになるが、「彼らの勉強量は内部生とはケタ違いで、入学後の試験で苦労する生徒も出てくる。留年生のうち3、4割は内部生」(予備校関係者)という声もある。

「専門課程に移行する2年次以降は、受験勉強よりも医師としての自覚が重要になってくる」と学校側は説明するものの、川崎医大の1学年の定員は120人で、このうち20~25人が附属校からの内部進学生だとすれば、芳しくない留年率だ。現役で医学部に入学できても、留年をすれば医師資格を取得するのが遅れ、追加で学費もかかってしまう。

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そもそも附属校が設立されたのは、学生運動に明け暮れ医師としての本分を忘れた医学部生たちの姿を創設者が憂え、受験勉強一辺倒でなく医師としての素養を育む必要性を痛感したのが始まりとされる。他方で、新設されたばかりの地方の医科大学に学生が集まるか不安だったため、附属校を設立して学生を一定数確保したいという思惑もあったようだ。

ところが、川崎医大の前年度の一般入試倍率は18.5倍と盛況。附属校からの推薦入試枠は年々狭まり、それにつれて設立当初は1学年50人だった附属校の定員数は現在35人に縮小。基準を満たす学生を選抜した結果、実際の在学生数は25人弱にとどまる。

確実に子どもを医学部に入れたい親たちにとって、選択肢の1つとなる国内唯一の医科大附属校だが、その真価は高い進学率だけでなく、医師になるうえで十分な知識や素養を育めるかにかかっている。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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