「自宅葬」がここへ来て見直されている理由 残された人が納得できる弔い方とは何か

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葬儀は、亡くなったことを認める最初の段階に関連する儀礼といえる。後々、故人との関係性を再構築するための土台となるものだ。安易に直葬を選択することは、その土台作りをないがしろにしてしまっていることにならないだろうか。

「直葬を選ぶ事情もそれぞれあると思います。儀式は必ずしも宗教的なものである必要はありません。親しい人で集まって故人のことを語り合う手作りの偲ぶ会でも十分に儀礼としての効果がある。儀礼をうまく使うことが死別への適応を助けてくれるということを知っておいてもらえれば」(松下さん)

故人と向き合う時間を大切にしたい

準備の様子

故人と向き合う時間を大切にしたい。その選択肢のひとつとして着目されつつあるのが「自宅葬」だ。

2016年8月、神奈川県鎌倉で、鎌倉自宅葬儀社を立ち上げた馬場翔一郎さん(33)は、葬儀業に携わって10年超。専門学校卒業後、人材派遣で入った葬儀業界だったが、その後独立し、多くの葬儀を請け負って、取り仕切ってきた。

自身の経験においていちばん「満足してもらえた」と感じた仕事が、自宅葬だったという。施設で長く過ごしてきた女性の葬儀。最後だけ、葬儀だけでも家でやってあげたい、という家族の希望で自宅葬の形を取った。

鎌倉自宅葬儀社を立ち上げた馬場翔一郎さん(右、写真提供:鎌倉自宅葬儀社、写真はイメージ)

以来、自宅葬をもっと普及させたいという思いを強め、昨年の同社立ち上げにつながった。

「在宅医療から在宅での看取りというのが理想的だと思いますが、なかなか難しい。病院に入院していたり、施設に入っていたからこそ、最後は葬儀だけでも自宅で、と希望する方は多いんです。8割の人が病院で亡くなる時代だからこそ、最後は自宅に帰してあげたい」(馬場さん)

自宅葬は手間がかかるものと思われているが、必ずしもそうではない。ひと昔前の自宅葬といえば、鯨幕と呼ばれる白黒の幕を家の周りに貼って、大きな提灯や花輪を飾って、と大がかりなものだったが、馬場さんはそのやり方を踏襲する必要はないと考えている。

6畳ひと間で家族葬をした経験もある。派手な花祭壇などは置かずに、お棺の周りに好きだった花などを少し飾る程度のものだったが、それでも遺族は十分満足した。家の広さとは関係がない。

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