「早稲田塾」が大量閉鎖を推し進める真の狙い あの「東進」の運営会社が見せた将来への布石

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しかしバブル景気は終わり、さらに少子化の波が着実に近づいていた。ナガセは大手予備校とは違う路線に舵を切る。1991年に衛星授業「サテライブ」を開始し、翌1992年にはそれをフランチャイズ事業化した。劇場で演劇を見るように授業を受けるのなら、それを映像化して配信できるはずだ。それなら、大きな校舎をつくる必要もないし、何より、全国津々浦々の高校生に、首都圏と変わらない授業を届けることができる。そんな発想だったのだろう。いまでこそ映像授業は珍しくないが、東進はその先駆けだった。

ちなみに「東進ハイスクール」はナガセの直営店、「東進衛星予備校」はフランチャイズ店。東進衛星予備校は、全国各地の有力塾に、ナガセが映像授業教材と指導ノウハウを提供するしくみ。雑居ビルの1室のような教室も多い。それだけに固定費は安く、経営効率はいい。大箱の予備校に比べ、不景気にも少子化にも強い。東進衛星予備校のネットワークを全国に張り巡らせることで、ナガセは成長した。

AO入試対策が得意な早稲田塾を買収

2006年、ナガセは中学受験の老舗「四谷大塚」を傘下に入れ、業界に衝撃を与えた。顧客接点の早期化を図る狙いだ。2010年には代ゼミが中学受験で飛ぶ鳥を落とす勢いの「SAPIX」を傘下に入れたことで、「ナガセ—四谷大塚」vs「代ゼミ—SAPIX」という、受験産業戦国時代と呼ぶべき象徴的な構図ができあがった。

ナガセが「早稲田塾」を傘下に収めることを発表したのは2014年10月。前年12月に教育再生実行会議が「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」を発表し、いわゆる「大学入試改革」の構想を打ち出し、その方向性がだんだんと見えてきたころだった。

早稲田塾はAO入試や推薦入試対策を得意とする塾である。ナガセが、2020年の大学入試改革をにらみ、早稲田塾を傘下に収めたことは明らかだった。決断の早さに当時私はびっくりしたことを覚えている。

今振り返れば興味深いのは、ナガセが早稲田塾を傘下に収めることを発表したのとほぼ同時期に、代ゼミは20もの校舎の閉鎖を発表していることだ。このとき世間の反応は「時代の流れについていけなかった代ゼミ」である。しかし私はそのとき、こんなツイートをしていた。

「代ゼミの校舎閉鎖に対して批判的な報道が多かったけど、他予備校に先駆けて、すべき決断をしたというだけで、後から見れば、「代ゼミの決断は早かった」という評価になると思う。東進がAO入試に強い早稲田塾を買収したのも、6年後の大学入試改革に向けての、これまた迅速な経営判断」(2014年10月29日のおおたとしまさのツイッター)
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