「改革」後継者 安倍首相辞任に揺れる市場心理

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バラまき復活への懸念

 後継の有力候補と目される麻生太郎・自民党幹事長の経済政策をめぐっては「経済に強いとの自負もあり、手堅い舵取りを行うだろう」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの五十嵐敬喜調査部長)といった見方が支配的だ。安倍首相との盟友関係を考えれば、「政策が百八十度変わってしまうこともないはず」(藤井氏)との評価が多い。
 
 ただ、首相が交代しても衆参両院の「ねじれ現象」が続く不安定な状況になんら変わりはない。衆院解散・総選挙のスケジュールも視野に入る。市場関係者が最もおそれるのは、後継者が「格差是正」の御旗の下に「バラまき財政の復活」など、「有権者にとって心地よい政策を優先してしまう」(国内証券の投資情報担当者)ことだ。

 「先頭を走るランナーのスピードを上げることで全体のレベルをアップさせよう、といった考えの持ち主が晋首相の座に就かないかぎり、海外投資家は“小泉前首相以前の状態に戻った”という短絡的な評価を下す可能性がある」(五十嵐氏)。国内の金融市場からそうした懸念を払拭するには小泉前首相の再登板がベストだろうが、それは想定しがたい選択。「ぶっ壊された自民党をどう立て直すかが与えられた役目」と8月の幹事長就任会見で話した麻生氏に、市場関係者からは「改革後退」への一抹の不安を覚える声が上がる。

 国内景気の先行きに不透明感が出てきているのも「逆戻り」の悪夢を想起させる一因だ。「雇用統計ショック」をきっかけに、米国のサブプライムローン(信用力の低い人向け住宅融資)の焦げ付きが同国の実体経済を下振れさせるリスクがにわかに台頭。輸出企業の収益悪化などの形で日本経済へ波及するシナリオも考えられる。景気の減速感が強まれば、痛みを伴う政策がますます取りづらくなるのは自明の理。財政の規律が緩む可能性も否定できない。

 外為市場関係者には「政局混迷は円高につながる」(三菱東京UFJ銀行市場業務部の高見和行調査役)との指摘もある。為替相場にとって目下、最大の材料は株価。政界のドタバタを嫌気して株安に振れれば、ヘッジファンドなどの投資余力が低下し円借り(キャリー)取引のポジション解消を招くという理屈だ。

 新宰相の「市場との対話力」が試されようとしている。

(書き手:松崎泰弘 撮影:梅谷秀司)

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