シェアリングエコノミーをGDPでどう扱うか 政府の統計改革における注目点の1つに

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従来のように、企業が多数の消費者にモノ・サービスを提供する仕組みと比べ、個人間の取引をとらえることは難しい。「家計と家計の間で取引が行われると、支出側(=利用者)は家計調査などで把握が可能だが、生産側(=提供者)の把握がしにくい」(内閣府経済社会総合研究所)。そのため、仲介手数料を基にサービスの価格を推計するなど別の方法を考えるしかない。

新品のモノが売れなくなる一方で、シェアリングビジネスによって生まれた新たな価値を計測しきれないとすれば、GDPにはマイナスの影響を与えるかもしれない。ただし「シェアリングビジネスが新たなニーズを生み周辺ビジネスが増えれば、GDPにはプラスの影響を与える」(第一生命経済研究所の新家義貴・主席エコノミスト)という側面もあり、シェアリングエコノミーの拡大がGDPにもたらす影響は、まだ不透明な部分が大きい。

内閣府の経済社会総合研究所は「現状、シェアリングエコノミーのどの部分を把握できていて、どの部分を把握できていないかも明確になっておらず、今年度から始める研究で明らかにする」としている。今後、日本でシェアリングエコノミーがさらに普及していくとすれば、従来の過剰生産・過剰消費を前提とした経済成長の測り方も見直す必要がありそうだ。

シェアリングエコノミーでフリーランスが増える

そもそもシェアリングエコノミーは、人々の働き方を根底から変える仕組みだ。発祥の地・米国では、すでに全労働人口の35%に当たる5500万人がフリーランスで働いており(米フリーランス組合・米アップワーク社の共同調査、2016年)、これはシェアリングエコノミーによりスキルの調達が容易になったことも背景にあるとみられる。インターネット上で単発の仕事を受注する非正規労働が広がっており、これは「ギグ(単発の契約で行うジャズなどのライブの意)エコノミー」と呼ばれる。

シェアリングエコノミー協会の上田代表理事は、「自分らしく、自由に働くことが可能になる一方で、質の高いサービス提供者に仕事の集中する傾向がある」と話す。多くのプラットフォームには、利用者が提供者のサービスを評価・共有するシステムがあるからだ。選ばれない提供者は収入が不安定になる懸念もある。

シェアリングエコノミーは個人消費を一変させるばかりか、従来の雇用のあり方を大きく変える可能性もある。適切な政策立案のためにも、実態を正確に把握する統計改革が欠かせない。

平松 さわみ 東洋経済 記者

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ひらまつ さわみ / Sawami Hiramatsu

週刊東洋経済編集部、市場経済部記者を経て、企業情報部記者

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