アウシュヴィッツで考える、麻生発言(中) 井の中の蛙が鳴く、”反日““自虐史観”の本質とは?

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安倍人事が物語るもの

安倍氏の姿勢がこんなドイツの歩みと好対照なのは、安倍政権の人事を見ればわかる。現在の政権中枢部にいる人たちの歴史修正主義は、アジアだけでなく欧米からも厳しい視線が向けられているが、安倍氏が文科相に任せている下村博文氏や、安倍氏の取り巻きである政調会長の高市早苗氏(アジアへの侵略戦争を自衛の戦争と長年主張してきた人物)、その他閣僚の歴史認識を検索されれば、どれだけ危険な歴史教育が“静かな環境下”で進んでいるのかお分かりになると思う。

麻生氏のナチス発言や、溝手顕正氏の差別用語発言といった目立つ言動より、文科省の人事や下村氏などが支持している歴史教科書の中身の変更といった“見えにくい水面下の、お得意の静かなやり方”のほうが長期的な影響が大きく、子供の教育にとって取り返しがつかないことになる恐れがある。

なお安倍氏が“専門家の諮問委員”とやらを集めると、大抵安倍カラーのお馴染み御用学者ばかりがメンバーになっており、安倍氏の独断のカモフラージュにしか思えない。

ちなみに連立政権の公明党がテレビでよく自民の再軍備や歴史観に注文を付けているが、これは“公明党も頑張っています”というガス抜きパフォーマンスにしか見えず、実体的な影響はまずないであろう。

高市早苗氏には、説明責任を果たしてほしい

残念ながら8月15日は “お国のために命を懸けて戦った英霊に感謝をささげてどこが悪い”という、安倍氏肝いりの高市早苗氏などによる、論点を逸らした一言ポリティクスが展開されるだろう。

誤解のないように言っておくが、国のために命を張って戦った人に感謝を捧げるのは当然だ。私が先週いたロンドンでも、戦死者を弔い、感謝する石碑があちらこちらにあるのに感心したし、国のための戦死者に指導者や国民が感謝し続けるのは至極当然のことであるし、日本の若者ももっと戦争犠牲者に想いを寄せるべきというのは大賛成である。

しかし論点と問題はそこだけではないのに、そこに論点と説明をすり替えようとする高市早苗氏の姿勢は、誠実に説明責任を果たしているとは思えない。しかも国外のみならず、国内でも理解を得にくいことが証明されている “英霊に感謝を”の一点張りを続けるのは、説明責任を有する政治家として極めて怠慢ではなかろうか。

これは日本のメディアでもよく言われていることだが、ドイツの慰霊施設に侵略戦争を主導したヒトラーは祀られていないが、今の靖国神社は失策で多くの自国民とアジアの人々を死に追いやった責任者が祀られている。

高市早苗氏は、“英霊に感謝を捧げる”の一点を呪文のように唱えるのではなく、“戦争主導者の合祀”“被害者諸国の気持ち”“戦争に駆り出されて亡くなった自国民”といった全体像にも、責任をもって説明責任を果たしていただきたい。

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