日経平均2万円でも日本株の行方は米国次第 日本経済正常化の歩み着実でも米政権に不安

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つまり、4月分の統計を踏まえれば、雇用・消費ともに改善が示されたという評価になる。2017年1-3月のGDP成長率は年率+2.2%と潜在成長率を上回る伸びとなったが、4-6月も引き続き同程度のプラス成長となる可能性が高い。2017年の日本経済は、輸出と生産活動が回復、そして消費や家計需要も底堅さを保ち、日本経済全体は好調とまでは言えないが、安定成長が続いているということになる。

一方、失業率は順調に低下しているが、賃金の伸びが抑制されている状況は大きく変わっていない。ただ、すでに2016年から賃金水準が高い正社員の数は、非正規者社員同様に増え、さらに2017年4月時点で正社員の有効求人倍率が0.97倍まで改善している。労働市場の需給改善が明確になり、正社員の領域でも「人手を確保する」という企業の動きが強まりつつある。この意味で、労働市場は量・質双方の側面で改善していることになる。正社員化の動きは、今後の賃金水準を引き上げることになり、日銀の2%インフレの実現を後押しするだろう。

日銀が筆者と同様の認識を持っているとすれば、金融政策は当面現状維持となるだろう。インフレ率の上昇を確認しながら、2016年9月に導入したイールドカーブコントロールを徹底して続けるということである。なお、2017年初には、日銀がゼロとしている長期金利ターゲットの水準を引き上げるとの見方が市場で広がり、またメディアでは日銀の出口政策ばかりが話題になった。

ただ、2%インフレ目標のオーバーシュートまで許容する日銀が、インフレ率が緩やかに上昇する過程で2017年内に引き締め方向に金融政策を転換することは想定されない。イールドカーブコントロール政策を徹底して、実質長期金利をマイナスに押し下げ、金融政策の景気刺激効果を強め続けると筆者は予想している。

金融市場に目を転じると、日本株市場それに影響を及ぼすドル円相場については、日本側の要因は、2018年初に固まるとみられる日銀の次期執行部の人事に絞られていると言えるだろう。これまで述べてきたとおり、2017年は米国のドナルド・トランプ政権での同国経済の行方、そしてFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策が、ドル円と日本株のパフォーマンスを決すると考えている。

なお、ドル円が1ドル=110円付近の円高となっているため、6月に入って日経平均株価が2万円を回復したとはいうものの、2017年5月末時点では日本株のパフォーマンスは、米欧などの株式市場からなお出遅れたままに位置づけられる。

今後は思わぬドル安が到来も

2017年4月までは筆者は、トランプ政権による拡張的な財政政策によって米経済の成長率が高まると想定していた。ただ、4月からトランプ政権の政治基盤が揺らぐ中で、拡張的な財政政策が実現する可能性は低くなったと現時点で判断している。

こうした中でも、米国株市場ではNYダウなど主要インデックスでの最高値更新が続いている。一方で、米国の債券市場では6月FOMC(米公開市場委員会)での再利上げが織り込まれる中で、10年国債金利が2.2%前後と低い水準にとどまっている。米債券市場は、トランプ政権の経済政策が期待できないことを織り込んでいると筆者はみている。

さらにいえば、筆者は、米経済の将来のアップサイド(上昇)の期待が徐々に低下する中で、FRBが2017年後半に想定どおりに利上げを行うことができるか微妙になってくるシナリオを最近考え始めている。そうした思惑が浮上すれば、思わぬドル安が到来するリスクがあるだろう。秋口までは、キャッシュなどで流動性を高めるポジショニングが重要になるとみている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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