「同性婚」合法化へ動き出す、台湾の光と影 同性愛者vs反同性愛者、宗教団体の対立激化

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ちなみに前出の洪さんは、祁さんの主張に同意しない。彼は「キリスト教信者の多くは、家でキリスト教の新聞を購読し、キリスト教の放送を視聴する。メディアを通じて彼らは、今でも同性愛に友好的ではない情報だけに接している」とする。さらに「もしある家庭の子どもが同性愛者であり、その家庭環境で受けうる情報がすべて同性愛者は罪だというものであれば、子どもの精神状態がどうなるだろうか」とも説明する。国民が受けるべき義務教育では、すべての人間に正確な認識を教えるべきであり、性別に関するイシューこそカギとなる、というのが洪さんの主張だ。

台湾がアジアで最初の同性結婚を認める国になると報道した外国メディアの多くは、今回の事態は総統選挙期間中から同性婚に肯定的だった蔡英文総統の影響力が強かったと伝えた。が、当選後の蔡英文政権の態度を見ると、逆にこの問題には距離を置いて消極的になり、賛成なのか反対なのかはっきりとした立場を示したことがなかった。そのため、多くの同性愛者は蔡英文政権に失望し、むしろ怒りさえ感じていたということは、あまり知られていない事実だ。

蔡英文総統はむしろ無為無策だった

「就任後、蔡総統は同性愛賛成・反対者の間での対立ばかり深めさせ、ただ傍観するだけだった」と洪さんは不満を吐露した。洪さんは「キリスト教団体が、同性愛者がいるからAIDS(後天性免疫不全症候群)が蔓延する、AIDSが蔓延すれば蔡総統が株式を保有する製薬会社が儲かる、といったウソのうわさとフェイクニュースを流し始めても、政府は何の反応も示さなかった。市民団体が強く抗議してようやく、当局者が反論し始めた」と、民進党(台湾)と政府の無作為を批判する。

楊さんは「基本的に台湾でも南に行けば行くほど、台北から離れれば離れるほど、同性愛に反対する人が多くなる。実際に地方では国民党よりも民進党の党員たちが同性愛に反対する」と述べる。そんな民進党党員や議員の中には、これまで表面上は同性愛に対して友好的な態度を示してきたものの、今になって政治家としての立場をこっそりと修正する者も出始めた。彼らは同性愛を支持することで政治的不利益を受けることを心配し、地方での反対意見と野合するため、同性愛に対する立場を明らかにしなかったり、特別法の制定を主張したりするようになったのだ。

同性婚は、法律の修正と教育問題、そして経済対策という、新たな発想ともすべて連結する。台湾はアジアで今、これまでになかった壮大な実験を始めた。台湾政府は同性愛に関する問題を克服し、その歩みを前に進めるのか、あるいは現実と妥協して傍観するのか。台湾のこれからこそ、注目すべき点である。

楊虔豪 台湾人ジャーナリスト
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