トランプのパリ協定離脱で深まる分断と孤立 市長や州知事、企業がパリ協定の推進を表明

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今回のパリ協定離脱は、トランプ大統領の選挙公約を実施に移したものである。だが、パリ協定離脱を決断するまでには紆余曲折があった。ホワイトハウス内での意見対立があったからだ。パリ協定に留まるべきだと主張するグループと離脱すべきだというグループがあった。残留派にはティラーソン国務長官、ペリー・エネルギー長官、トランプ大統領の娘のイヴァンカと彼女の夫のクシュナー大統領上級顧問らが含まれている。離脱派にはプルイット環境保護局長官、バノン首席戦略官・上級顧問、マクガーン法律顧問などが名を連ねている。

残留派は、気候温暖化ガスの削減目標は強制力を持たない自発的なものであり、米国はパリ協定に残って、その目標を引き下げる一方で条約の再交渉を進めるべきだと主張していた。ペリー・エネルギー長官は、残留して再交渉を行うように説いていた。

パリ協定では、各国は自主的に温室効果ガスの削減目標を決める仕組みになっており、削減目標を修正することは可能になっている。トランプ政権のエネルギー政策を立案した共和党のクレーマー下院議員もトランプ大統領に書簡を送り、パリ協定にとどまり目標を修正するように、進言している。ただ、協定を詳細に読むと、目標を引き上げる形での修正は認められるが、引き下げる場合に関しての明確な規定は書かれていない(これは、後ろ向きの修正を認めないことから「no-backsliding provision」と呼ばれる)。

他方、離脱派は条件闘争を拒否し、即座の離脱を主張していた。プルイット環境保護局長官は「パリ協定はアメリカにとって不公平な協定だ。中国やインドを拘束する内容になっていない」と主張している。パリ協定の科学的、経済的な合理性を問題にするのではなく、アメリカに過大な負担を強いているというのが離脱の最大の理由である。さらにオバマ大統領が議会に諮ることなく、大統領令でパリ協定を承認したことに対する反発も見られた。ホワイトハウス外でも、離脱を求める石炭関係の業界団体などが激しいロビー活動を展開していた。

歯切れの悪かったトランプ大統領の演説

トランプ大統領がパリ協定離脱を発表する会場の最前列に座っていたのは、一時、トランプ大統領の信任を失い失脚するのではないかと思われていたバノン首席戦略官であり、イヴァンカやクシュナー大統領上級顧問の姿はなかった。ホワイトハウス内の論争では、離脱派が勝利したことを象徴的する状況であった。

だが、トランプ大統領の演説は極めて歯切れの悪いものだった。トランプ大統領は「我々はアメリカとアメリカの市民を守るという義務を果たすために、パリ協定から離脱する」と宣言する一方で、「アメリカの企業や労働者、人々、納税者にとって公平な条件に基づくパリ協定かまったく新しい協定に再加入するための交渉を開始する。それが公平なものかどうか見てみよう。公平になれば、素晴らしい。公平な結果が得られなければ、それはそれでよい」と語っている。「再交渉」、「再加入」の含みを持たせることで、残留派と離脱派の双方に気配りしたニュアンスの発言である。

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