高偏差値「医学生」の留年が急増している理由

日本中の優秀な頭脳が集まったはずなのに

少子化に反した定員増がアダに(写真:utah_51 / PIXTA)

医学部は1つでも必修科目を落とすと留年になるなど、他学部と比べて進級条件が厳しい。特に2年次になると解剖学や生理学など膨大な情報量の基礎医学の講義が朝から夕方まで毎日入り、脱落者が多く出てくる。ただ、こうした厳しい進級条件は今に始まった話ではない。医学部人気の過熱で、日本中の優秀な頭脳が医学部に集まっているはずなのに、なぜ留年者数が増えているのか。

理由の一つは、少子化により18歳人口が減っているにもかかわらず、2007年まで7625人だった医学部の定員が、この10年間で9420人に拡大されてきたことだ。医学部志望者数が増えて偏差値は上がっていても、「全体の学生のレベルは若干落ちている」という見方が大学関係者からあがる。

医師には強い目的意識や生涯学ぶ気概が必要なのに

また、近年過熱する医学部受験人気の弊害も指摘されている。東京慈恵会医科大学・教育センター長の福島統教授は、「医者になるには本来強い目的意識や年々新しく出る症例などを生涯学ぼうという気概が必要。高い偏差値で手に職をつけようと入学した学生にはギャップが生じやすい」と話す。

医学部の志望者数は景気の波に左右される。2008年のリーマンショック以降、安定して働ける資格職、中でも高年収の医者人気は上がった。相次ぐ私大医学部の学費の値下げも重なり、志望者数はこの10年間で4割近く増えた一方、本誌が現役医学部生に取ったアンケート結果では、留年する医学部生の特徴として「そもそも医者の仕事に興味がない」「医学部合格が目的で燃え尽きて、大学に来なくなった」というミスマッチをあげる声が出ている。

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基礎医学が始まり専門課程に移行する2年次のほか、医学知識評価の共用試験(CBT)、客観的臨床能力試験(OSCE)を受けなければいけない4年次が留年生を量産する鬼門の学年。さらには、6年次に受験する医師国家試験も一般に「9割合格」といわれるが、実態は大学毎に合格率はまだら模様。本誌の調査では、実質的な合格率が6割の大学もあった。

留年を1回も経験せずに国家試験を一発合格するストレート合格比率は2015年3月卒業者が84.2%で、5年前の87%から年々低下している(「医学教育カリキュラムの現状2015」)。だが、これも大学ごとに大きな差がある。「留年数を開示していない一部の大学では、卒業までに平均10年、よくて8~9年かかるのが実態になっている」(私立大医学部教授)。

私立大医学部の年間の学費は平均500万円程度。留年や国家試験の落第は笑いごとでは済まないケースもある。医学部に進んだ学生とその親だけが知る、険しい医者への道のりである。

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