大阪市「地下鉄民営化」後の険しい道のり 値下げや関連事業、市の予測は実現できるか

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以上をまとめると、大阪市が予測した民営化10年目の収支の現実性が判断できる。関連事業の営業収益を民営化10年目に66億円増やすという計画は東京地下鉄も実現させていないし、人件費を173億円下げることも大変難しい。法人税等が予測よりは17億円少なくなりそうとはいうものの、それでも97億円の増加となる。

大阪市交通局の鉄軌道事業における営業収益は全国の208鉄道・軌道事業者中7位、同じく営業損益は5位を記録した。大阪市交通局より上の順位を占めている鉄道事業者は営業収益ではJR東日本、JR東海、JR西日本、東京地下鉄、JR九州、東武鉄道、営業利益ではJR東海、JR東日本、JR西日本、東京地下鉄だけである。

民営化後の道は険しい

これだけの優良鉄軌道事業者でありながら、民営化後には険しい道のりが控えているのは皮肉だ。

もちろん、公営鉄道であるがゆえに租税公課や法人税の大多数を減免されていたり、大多数の区間が地下トンネルという構造物内であるために、鉄軌道業専属固定資産が地上に敷かれた鉄道と比べて著しく多く、何よりも莫大な建設費を償還するために多額の累積欠損金を抱え込まざるをえないといった地下鉄ならではの事情も考慮しなければならない。だからこそ、東京都交通局をはじめとする公営鉄道の地下鉄は民営化されていないとも言える。

何はともあれ、全国初となる公営鉄道の民営化が決まったことでもあるので、あとは高速鉄道事業会社に任せるほかない。利用者の立場から言えば、いま以上に便利な存在となってほしいところだが、従来よりもコスト面でシビアになることもまた確実だ。

梅原 淳 鉄道ジャーナリスト

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うめはら じゅん / Jun Umehara

1965年生まれ。三井銀行(現・三井住友銀行)、月刊『鉄道ファン』編集部などを経て、2000年に独立。著書多数。

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