日本を「熱狂なきファシズム」が覆っている 映画作家・想田和弘が考える日本の今

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僕の場合は、先入観をなるべく排除するため、撮影前にリサーチをせず、テーマも設定せずに、目の前の現実をよく観察しながら行き当たりばったりでカメラを回す手法で撮っています。組織のなかで作らないからできる方法です。独立の立場で編集が終わるまで100%責任を持ちたい。だから映画が完成してから配給先を探すんです。

映画の制作を通してアメリカという国を再発見

──アメリカの大学では学生さんたちと映画制作をしたそうですが、どんな作品なんですか?

ミシガン大学の13人の学生と一緒に、ビッグハウスという愛称のスタジアムの観察映画を作りました。ビッグハウスはミシガン大学が所有する全米最大のアメフト場で、街の人口とほぼ同じ10万人を収容できます。ここを「試合以外のすべて」を合い言葉にみんなで観察しました。セキュリティ、掃除、医療、資金集めなど、その場を成り立たせていることのすべてが対象です。ビッグハウスはアメリカの縮図。映画の制作を通して、アメリカという国を再発見しました。

学生たちは、僕だったらまず撮らないだろうなというものを撮ってきます。ある学生は、スタジアム内の巨大な厨房を観察しました。撮ってきた映像を見てびっくり。汚れた皿を洗う食洗機のなかにGoPro(小型ウェアラブルカメラ)を入れて撮っていたんです。お皿の視点で。カメラをありがたがって絶対粗末にできないわれわれの世代にはない発想です。

──時代がどんどん変わっていくなかで、プロであり続けるために大切なことはなんでしょうか?

昔は「映画監督になる」と言いましたが、今は違います。今は誰でもスマホで撮って公開することができる。映像制作が権威などに守られていないんです。僕も映画監督と名乗れる状態を維持する努力を続けています。プロの人間もプロであることを維持するために相当な労力と鍛錬が必要です。

(聞き手・構成/渡邊 悟)

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