日本は主役になれるか iPS細胞ビジネス

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京都大学の山中伸弥教授が昨年発表し、一躍注目を集める新型万能細胞の「iPS細胞」。京大はその知的財産を管理・活用する新会社「iPSアカデミアジャパン」を6月25日に設立した。

資本金は1億円で、社長には吉田修・前奈良県立医科大学学長が就任。新会社では、京大で出願しているiPS細胞特許の獲得を前提に、その基本特許使用を管理する。さらにiPS細胞の実用化には創薬への応用技術も不可欠なため、他大学や研究機関が保有するiPS関連特許の一元管理も図る。弁理士など交渉の専門家もそろえ、社名に付したように「国際的な知的財産の獲得競争に勝ち抜くオールジャパン体制を築く」(同大学産官学連携センターの寺西豊教授)ことが狙いだ。大学が特定の知財管理会社を設立するのは異例だが、「iPS細胞発見は、まさに生物界のパラダイムシフト。画期的な技術革新をマネジメントする体制を整えたい」(寺西教授)。

特許取得の行方が混沌 国は研究開発を後押し

iPS細胞の最大の特徴は、神経や臓器など人体のさまざまな組織や器官になる「万能性」。これまで万能細胞の代表格といえば、受精卵を壊して作成するES細胞(胚性幹細胞)だった。しかし、ES細胞は他人の細胞を移植するため、拒絶反応のリスクが高いとされた。一方、iPS細胞は自分の皮膚などから作成できるためリスクが低い。そのため、病気で傷んだ組織や器官をよみがえらせる「再生医療の切り札」といわれ、脊髄損傷や心筋梗塞など、難病治療への期待が高まっている。

iPS細胞をめぐる世界的な研究開発競争が進む中、特許獲得の行方は混沌としている。マウス実験に基づくiPS細胞作成では、京大の山中チームは世界に先駆けて特許出願した。ヒトの皮膚からの作成では、2007年11月に京大と米ウィスコンシン大学が同時に論文を発表。今春、独系バイエル薬品のチームが細胞作成で先行していたと報道されたが、特許出願の有無や時期など詳細は不明だ。そうした状況下での知財管理会社設立は、オールジャパン体制の強固な枠組みを作り、国内初の技術革新を早期に実用化させようという意気込みの表れといえる。

政府もそのバックアップに本腰を入れている。山中教授の研究発表を受け、早急に研究促進の体制整備に着手。「日本発」の技術を確立させようと、内閣府の総合科学技術会議の下にワーキンググループ(WG)を設置しており、「個別テーマでの設置は異例」(WG事務局)。今年度中に「先端医療開発特区」を設置する予定で、iPS細胞研究は同特区選定の有力候補と見られている。特区では予算配分や新薬審査での優遇措置が講じられる見通しだ。

官学そろって体制整備を進める背景には、iPS細胞が持つ産業界へのインパクトの大きさがある。仮にiPS細胞が再生医療に活用された場合、市場規模は兆円単位になるとの見立てもある。それだけにいかに官学だけでなく「産」も取り込み、市場を創出させられるかも重要だ。

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