東芝、メモリ売却を巡る「泥仕合」の一部始終 合弁相手の米WDと激しい応酬が続く

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渦中の存在となっている合弁会社は株式会社ではなく、有限会社や合同会社で、製造装置を購入・保有するペーパーカンパニーでしかない。しかも、合弁の持分は東芝:50.1%、SD:49.9%、実際の工場のオペレーションは東芝側の人員が行っている。つまり、現実的にWD単独で事業を行うことは簡単ではないのだ。

東芝の作戦の全容はこうだ。東芝メモリが持つ、四日市工場の土地、建物、オペレーションの従業員、技術資産などをまず売却。合弁の出資持分に関しては国際司法の判断が出た後に移管する。「入札者からの理解も得ている」(東芝関係者)。もちろん、これは裁判に勝つ前提である。

スキームが壊れればお互いに困る

完全に修復不能に見える両社だが、まだ歩み寄りの余地は残っている。

「売却に反対しているのは、合弁が第三者に売却されることでスキームが壊れてしまうからだ」とWD関係者は強調する。誰が東芝メモリを買っても、WDと協調していく必要がある以上、WDの懸念は杞憂に思える。が、それなりにうまくやってきた東芝とSDが、“第三者”であるWDの登場でこじれた現実を見れば、東芝より遙かにしたたかな企業が新たなパートナーとなることをWDが避けたいと思うのは至極当然である。

東芝の迂回策が有効となればWDも苦しい。WD関係者は「スキームを守ってくれる保証があるなら、売却を認めてもいい」と言う。この言葉が本当ならば、妥協点は見いだせるかもしれない。東芝も、WDと完全に決裂することは避けたいのが本音なのだ。

「WDは四日市へのコミット、技術投資を続ける」(WD関係者)。四日市に少なくとも7000億円程度をかけて第7工場を建設する意志があるとも明かしている。四日市では今年の初めから東芝が第6工場の建設を始めている。WDはその先となる第7工場についても自らの関与を表明することで、東芝や日本政府の感情を和らげる狙いだ。

来週にはWDのミリガンCEOが来日し、東芝に対して再提案を行う。この中身は明らかにされていないが、落としどころを模索するはずだ。

決裂するか、急転直下で決着するのか――巨額ディールをめぐって駆け引きは続く。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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