やはり廃案となる可能性が高いトランプケア なぜ米国の医療制度はうまくいかないのか

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こうした中で登場したのがオバマケアだった。オバマ前大統領は数々の歴代大統領が公的医療皆保険を目指したが政治的反発に遭って挫折した経緯から、民間保険主体のまま擬似的に皆保険を目指した。

具体的には、(1)個人や雇用主(一定の要件あり)への保険加入義務づけ、(2)既往歴を基とした加入拒否や保険料値上げの禁止、保険給付内容の標準化、保険給付の上限設定禁止など保険会社への規制、(3)保険料や窓口負担での低所得者向け補助金――が中心だ。

オバマケアで無保険者は減少したが費用が上昇

オバマケア施行後、無保険者は順調に減少し、2015年には2900万人と2年間で1300万人減少した(米国政調査局推計)。それでもオバマケアの支持率がなかなか高まらなかったのは、共和党と民主党との党派的な対立に加え、医療費や医療保険料の上昇が止まらなかったことに原因がある。米国の調査では、2010~15年で物価が10%上昇したのに対し、医療保険料は27%の値上がりとなった。つまりオバマケアは無保険者減少を実現したが、医療・医療保険料上昇には効果が小さかったといえる。

なぜ、こうなったのか。政府が診療報酬や医薬品価格を統制する日欧と違い、米国の医療は医師・医療機関(供給者)が自由に価格を決められる。医療は命に直結する行為でニーズに際限がない一方、患者(消費者)は病状や治療方法の選択、実際の費用について十分な情報を持つことができないという特徴がある(いわゆる「情報の非対称性」)。

こうなると、検査、治療方法、医薬品の選択など、すべての面で供給者が主導権を持ち、医療費の上昇に歯止めがかかりにくくなる。本来なら支払い側の保険会社が医療機関に対して牽制力を持つべきだが、ここでも「情報の非対称性」が立ちはだかる。患者ごとに個別性の高い治療方法の選択などについて、保険会社が口を挟む余地は小さいからだ。

保険会社が提携医療機関に治療方法の選択などで制約を加えることはできる。しかしその結果、医療の質が低下したと消費者に認識され、保険の人気が下がる可能性がある。それよりも、ニーズが底なしの加入者に保険料値上げを提示するほうがはるかに容易だ。実際、多くの保険会社はそのような行動を取っている。

医療費高騰により、米国の国民1人当たり医療費は先進国平均の約2.5倍と突出するが、こうした状況の多くは、公的な国民皆保険がないことに加え、診療報酬や医薬品価格への統制がないことに起因する。

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