アマゾンは、メディアで稼げるか? ベゾスの「メディア改造計画」を予測する

拡大
縮小

アマゾンがもたらす3つのもの

アマゾンは、従来のメディア企業にはない3つのものを持っている。

それは、「圧倒的なテクノロジーとデータ」「徹底した顧客志向」「莫大な財力」である。なかでも注目すべきは、テクノロジーとデータだ。

アマゾンは、長きに渡り、世界中の人々の「購買データ」を溜め込んできている。書籍や日用品やデジタルコンテンツなどの販売を通じて、「誰が何をいつ買ったか」を知り尽くしているのだ。

メディア企業も、「誰がどの記事を読んだか」の情報を有している。たとえば、英国のフィナンシャル・タイムズ(FT)は、「ライバルをアマゾン」と設定し、データの収集・分析機能を高めてきた(詳細は、拙著『5年後、メディアは稼げるか』を参照)。とはいえ、いくらメディア企業が頑張っても、アマゾンのテクノロジー、データ量の前には、ヒヨっ子同然だ。

こうしたデータとテクノロジー、そして、eコマースで培ったノウハウを活かして、アマゾンはどんな事業を展開できるのか。

「eコマースとニュースの融合」「ネット広告の進化」「ニュース版iTunesの展開」「キンドルとの連携」という4つの切り口から、その具体策を予測してみよう。

1)eコマースとニュースの融合

アマゾンは610億ドル(2012年実績)の売上高を誇る、世界最大のeコマース企業である。そのノウハウをニュースと融合させることで、ネットメディアに、新たな収益源をもたらすことができるかもしれない。

紙の部数が急激に落ち込む中、欧米メディア各社は急速なデジタルシフトを進めている。ニューヨーク・タイムズやFTはすでに、デジタル版の購読者が紙を上回っているほどだ。しかし、オンラインは広告単価や購読料が紙より低いため、各社ともマネタイズに苦戦している。そこで新たな収益源として期待されるのが、eコマースだ。

現時点で、ニュースサイトに掲載されているのは広告ばかりだが、その広告スペースを、商品の販売やアマゾンサイトへの誘導に使うこともできる。

たとえば、あるメーカーがPCの新製品を発売し、そのバナー広告をワシントン・ポストのサイトに掲載するとする。その広告をクリックすると、直接アマゾンの購入サイトに飛び、すぐに購入できるといった具合だ。

アマゾンの膨大なデータを利用すれば、読者と商品のマッチング精度も大きく向上するだろうし、読者もアマゾンの決済には慣れているため、購入への抵抗感も薄いはずだ。アマゾン側にしても、アマゾンのサイト以外に、販路が拡大するというメリットもある。とくに今後拡大するモバイルのeコーマスにおいて、ニュースサイトは魅力的な販路になるだろう。

日本の例でいえば、「ほぼ日刊イトイ新聞」(ほぼ日)は、広告を載せない代わりに、自社企画商品の告知を掲載し、eコマースで高い収益を上げている。それと似たことを、テクノロジーをフル活用し、世界レベルで行うイメージだ。

次ページグーグルに匹敵する広告代理店に?
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT