トランプ政権、「バノン復活」がもたらす災厄 このままではジャパンバッシングが再燃する

✎ 1〜 ✎ 15 ✎ 16 ✎ 17 ✎ 最新
拡大
縮小

その3派のうち、ホワイトハウス内における共和党グループの勢力は変わっていない。その一方で親族グループが後退し、代わって反エスタブリッシュメントグループのスティーブン・バノン氏が復活している。

これは日本にとっても大きな影響がある。とくに通商政策上、厄介なことになりそうだ。

というのは、日米経済関係や貿易問題では、インディアナ州知事だったペンス副大統領がトヨタと関係が深いことから、日本にとって好都合だった。ところが、その役回りが実質的にウィルバー・ロス商務長官にバトンタッチされた。長年の知日派であるロス氏は日本のことを熟知している。それだけに、むしろ厳しい対日姿勢を示すことになりそうだ。

バノン氏復活でジャパンバッシングが再燃する

もっと厄介なのが、反エスタブリッシュメントグループのバノン氏の力が復活してくることだ。

バノン氏はトランプ大統領を陰で操る黒幕と米メディアに持ち上げられ、中東・アフリカ7カ国からの移民を規制する大統領令の最初の骨格を起草した人物として一躍有名になった。

その大統領令が連邦地裁によって差し止め命令が下され、持論の対中強硬策が北朝鮮問題をめぐって後退するなど、バノン戦略が政治的現実にそぐわなくなり、一時、バノン氏は国家安全保障会議(NSC)から外され、ホワイトハウス内でクシュナー氏との権力闘争に敗れた。3月から4月にかけては、いつ政権から放逐されても不思議ではないと米メディアで叩かれ続けてきたといえる。

ところが、「ロシアゲート」を契機に、これまでバノン氏を押しのけて前面に出ていたクシュナー氏が後退。バノン氏が内部権力闘争で再浮上してきた。現に、トランプ大統領は2020年の再選を見据えるキャンペーン作戦立案メンバーの1人にバノン氏を指名している。これはバノン氏の完全復活と見ていいだろう。

バノン戦略の根幹は、敵とおぼしき相手の悪口を声高に吠えること。トランプ氏は選挙戦中にそれを実践して成果を上げて選挙に勝った。その相手は直接的にはヒラリー・クリントン候補であり、勝利してからの相手はバラク・オバマ前大統領だ。

海外では中国、日本、ドイツなど貿易黒字国がターゲットだ。特に中国に対しては選挙戦中、さんざんに悪口を並べてきた。ところが、4月の米中首脳会談直後から豹変し、中国を為替操作国の認定から外すなど、矛先を引っ込めている。

盟友のバノン氏と再び距離を縮めたトランプ大統領は、今回の先進国サミット(G7)では、ドイツに対して悪口を言い続けた。ただ、ドイツは欧州連合(EU)の一角にすぎない。アメリカにとって最大の敵とおぼしき相手は中国をおいてほかにない。

ところが、朝鮮半島情勢が微妙な間は中国を相手に悪口を言えない。となれば、あとは日本しかないのである。ジャパンバッシング再燃の可能性がますます強まったといえるだろう。

湯浅 卓 米国弁護士

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ゆあさ たかし / Takashi Yuasa

米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンD.C.)の資格を持つ。東大法学部卒業後、UCLA、コロンビア、ハーバードの各ロースクールに学ぶ。ロックフェラーセンターの三菱地所への売却案件(1989年)では、ロックフェラーグループのアドバイザーの中軸として活躍した。映画評論家、学術分野での寄付普及などでも活躍。桃山学院大学客員教授。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT