一流の経営者は在任中に3回変身している 社長が変われない会社は自壊していく

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ベンチャーの成功率は極めて低いものです。多くの会社が1年、2年で消滅します。それだけ起業した会社を成長軌道に乗せることは難しい。創業社長が必死になるのは当然ですし、ならないとすれば「即倒産」ということになります。

松下幸之助さんでも、創業当初は社内会議の最中に自分の考えを理解しない部下に対して、思わず灰皿を投げつけたことがよくあったそうです。危なくて仕方がない。そこで当時の総務課長が、ガラスの灰皿をアルミの灰皿に代えた。「アルミの灰皿であれば、ヒラヒラと飛んで、思いどおりのところに飛びませんからねえ」というのが総務課長だった人の自慢話で、この話をよくしてくれました。松下さんも必死だったのだということがこのエピソードでもわかります。

しかし、こういう「激烈さ」を10年続けてはいけません。折角、うまくいきかけた企業が崩れるのは、このときに社長が変われなかったからです。それはどうしてか。

激烈な経営を長期間続けると…

起業直後は、周囲の仲間たちも社員も、創業社長の「激烈さ」に、なんとか我慢して協力します。ところが軌道に乗ったにもかかわらず、社長が相変わらず「激烈さ」を続けると、耐えられなくなった社員の不満が爆発し、社内はさながら「内乱状態」になります。

それでも、創業社長が「激烈さ」をやめない場合が多い。いままで、それで成長してきたのだからという、「過去の成功体験」で経営を進めようとします。しかし、それでは経営はうまくいかず、結局のところ倒産することになるのです。

軌道に乗ったと感じ始めたら、もう「激烈さ」は抑えて「調整」を意識するような経営をしなければなりません。今までがむしゃらにやってきた分でムリなところも出ているわけですから、そこを補正しなければならない。そのためにも社員の意見を聞くようにするべきです。

今まで上意下達だけ、指示命令するだけのやり方を改め、社員の意見も聞き、時に取り入れる。最初は自分1人だけの「激烈さ」で引っ張ったとしても、会社が落ち着きかけてきたら、今度は意識的に社内をまとめ、社員の心をひとつにすることに努力する必要があるのです。

強制的指示を控える。社員に積極的に話しかけ、社員の自主性を導き出す。創業時の「受け身人間」だった社員を「能動的社員」に変える。そのようなことをして「経営のやり方」を「調整」すべきです。

ただ、調整に終始すると「最高指導者」にはなれません。片桐且元のような状態になり、会社はそれ以上成長しないか、あるいは衰退倒産するということになるでしょう。

片桐且元については、NHKの大河ドラマ「真田丸」で登場していたので、ご存じの方も多いのではないかと思います。且元は、賤ヶ岳の合戦で「賤ヶ岳の七本槍」の1人として活躍したほどの人物でありながら、豊臣秀吉と徳川家康の間を取り持つ調整ばかりに走り回る。また、それゆえ、秀吉側についたり家康側についたり。まあ、本人は秀吉側と家康側をなんとか調整、仲直りさせ、イニシアティブをとろうとしたとは思いますが、歴史の評価は「忠臣を装う人物」といわれています。あまり創業社長が「調整」ばかりしていると、社員からリーダーシップがないと批判され、権威も失うようになります。

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