5日間で会社が変わる「短期集中会議」の凄み グーグル発「スプリント」の驚くべき効果

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――印象に残っているベスト&ワーストスプリントは。

印象深い失敗例は、本でも触れたが、最後のプロトタイプのテストで顧客から絶賛されたスプリントを行ったにもかかわらず、製品開発に至らなかった会社だ。参加者全員にとってとても悲惨な結末だった。何が問題だったかというと、スプリントの参加者の中に意思決定権を持っている「決定者」がいなかったことだ。アイデアをその人に持って行ったら、あっさり「すばらしいアイデアだけど、うちの戦略には合わない」と言われて終わってしまった。

この点は本でも強調しているが、それからは必ず、決定者を参加者に絶対加えるようにしている。5日間は無理でも、(問題を洗い出す)月曜日、あるいは(アイデアの内容を詰める)水曜日にちょっとでも顔を出してもらうだけでもいいから、決定者を加えることは非常に重要だ。なぜなら、その決定者はチームの中で目立つメンバーだけでなく、全員のアイデアを聞くことができるからだ。もし、アイデアがいまひとつでも、その間に費やしたのは1週間に過ぎないし、次に進めば良い。

複雑な状況に「メス」を入れられる

スプリントをやって実感したのは、多くのCEO、特にスタートアップのCEOが、半永久的な、価値のあるすばらしい決断をしないといけないというプレッシャーにさらされているということ。しかし、スプリントの場合、確固たる、半永久的な決断を下す必要はない。

一方、成功例が多いのはヘルスケア業界。理由の1つは米国のヘルスケア業界がそれだけ複雑化していることにあると思うが、ヘルスケア企業には病院、クリニック、患者、医者、保険会社、医薬品会社、政府――と多くの利害関係者がいて、それぞれがそれぞれの目的を持ってかかわっている。

あるヘルスケア会社がこの利害関係者すべてをひとところにまとめて、それぞれの理にかなったソフトあるいはサービスを展開しようとスプリントを行ったが、結果はすばらしいものだった。ヘルスケアは生死にかかわるものだけに、成功した場合は見返りが大きい。

スプリントの何がすばらしいかというと、とても複雑な状況においても参加者が何らかの解決策を見いだし、一歩前に踏み出せるという点だ。スプリントでは、一見解決不可能に思える問題にも取り組むことができる。

――スプリントは企業のサイズや業種にかかわらずできるそうですね。

当初はハイテク企業が多かったが、それはスプリント自体がコンシューマーソフト開発のために始まったからという理由もある。が、GVでヘルスケアやロボット、コーヒーなどあらゆる業種のスタートアップにかかわってから、さまざまな業種で応用可能だと気が付いた。

当初はハイテク企業が、スプリントをやったことをブログに書いたりして広がっていったが、本が出てからは保険会社や美術館といった伝統的な業界でも実行しているという話が届く。ルフトハンザやKLMといった航空会社や、米国や英国政府でも行われている。スプリントの目的はチーム内の問題を洗い出し、アイデアを決定し、それをトライすることにある。これはどの業界でも応用可能だ。

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