戒厳令のミンダナオで起きている本当のこと 和平実現に向けてドゥテルテ比政権の正念場

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政府軍はドゥテルテ大統領の就任1年となる今年6月をメドに、イスラム過激派の掃討作戦を展開している。アブ・サヤフ掃討には米軍特殊部隊が参加していると見られ、BIFFやマウテに至っては弱小組織にすぎないため、その気になれば一掃できそうにも思えるが「島しょ部やジャングルでの掃討作戦はそれほど容易ではない」(フィリピン政府軍筋)という。

東南アジアのイスラムネットワーク

1970年代から武装闘争を主導したモロ民族解放戦線(MNLF)(筆者撮影)

今回の事件で、政府当局者が「マウテの中にマレーシア人、インドネシア人がいた」と発言したのは何ら驚くに当たらない。隣国マレーシア/インドネシア領のボルネオ/カリマンタン島とミンダナオ島の間は、スールー諸島でつながっている。歴史的にイスラム王国が繁栄した海域であり、現在も合法・非合法を含めて活発に越境・往来している。

アキノ前政権時代に和平プロセスが停滞する原因となったのは、国家警察特殊部隊49人がイスラム勢力との遭遇戦で殺害された「ママサパノ事件」(2015年1月)である。詳細は省くが、このときに警察が拘束しようとしたのは、日本人を含む202人が死亡したバリ島爆弾テロ事件(2002年10月)に関与したとされる東南アジアのイスラムネットワーク「ジュマア・イスラミア」幹部のマレーシア人だった。

筆者は当時、バリ島事件を現地取材した経験があり、その首謀者が一時的にせよミンダナオに潜伏していた事実に、感慨というと不謹慎だが複雑な思いがよぎったものだ。

そもそもMNLFはマレーシアのイスラム勢力の支援で武装蜂起した経緯があり、MILF幹部の中にはアフガニスタン系の組織の軍事訓練を受けた者もいる。10年余り前にインドネシア東部の島でイスラム強硬派の取材をしたとき、「ミンダナオから漁船で武器を運んでいる」との証言を得たことがあって、海路による東南アジアのイスラムネットワークの広がりは、今に始まったことではない。

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