日本の高齢者が不平不満を抱える根本原因 「人生=仕事」という日本ゆえの悲劇だ

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ニック・ポータヴィー/ 英ウォーウィック大学ビジネススクール教授。行動経済学の立場から幸福研究を手掛け、イギリスのメディアでの発言も幅広い反響を呼んでいる。邦訳書に『幸福の計算式』(阪急コミュニケーションズ)

――日本の高齢者は特に幸福感が低いというデータが出ているが。

世界の調査統計で確認したところ、日本人の場合、最も不幸、つまり怒りに満ち、人生に満足していないのは、65~75歳の年代グループという結果だった。人の幸福感はほとんどの国において、通常、30代から下降線をたどり、40代で底を打ち、50代からまた盛り返すU字型カーブになっている。だから、苦悩する40代の人々を形容して「ミッドライフクライシス」(中年の危機)という言葉もあるほどだ。

一方で、日本では最も幸せなのは25歳以下の年代で、その後は一貫して下がり続けるL字型カーブ。75歳を過ぎて若干、幸福感は上昇するが、それほど大きなものではない。歳を取るほど、不幸になる。こうした状況は世界の中でも極めて特異のものといえ、日本では人生のクライシス(危機)は、中年より老年にやってくるということだ。

――一般的に、人は、高齢になると不機嫌になるということではないということか。

なぜ、幸せはU字型になるのかといえば、われわれは歳を取れば、過度な期待をしなくなり、より賢くなり、現実を受け入れることができるようになる、と考えられているからだ。一方で、アジアでは「お年寄りは敬われるべき」といった社会的通念が強く、日本でも歳を取るにつれ、(年功序列などで)ステイタスを手に入れる構造になっており、「期待値」が下がりにくく、現実との乖離が生まれてしまっているのかもしれない。

期待値が高いから不幸に感じる

――期待値が高いことが不幸感につながっていると。

幸福は「現実」と「期待値」との乖離により大きく影響を受ける。その幅が小さいほど、幸せになりやすい。西洋では「歳を取れば、若者から敬われるべき」などといった通念はなく、そういったことは期待していない。しかし、日本の高齢者は、長い間、一生懸命働いてきて、それがまだ報われていないという気持ちが強いのではないか。収入や金銭的な心配や不安が彼らの不幸感の源泉とは言い切れない。特に収入に問題がない人でも、歳を取るほど、不幸に感じるという傾向があるからだ。

――収入と幸福には相関関係はあるか。

もちろん、おカネがある人のほうがない人より、幸せを感じやすいという傾向はある。しかし、たとえばある国の国民の収入が過去に比べて総体的に上がったからといって、その国民がより幸せになったと感じているかといえば、そういうことにはならない。また、その国のトップ1%の金持ちだとしても、自分をトップ0.1%の人と比較して、不幸に感じる人もいる。つまり、幸福感や満足度は、どれぐらい期待値を上げ、それがどれぐらい満たされるかによって、変わってくるのだ。

――幸福の決め手、幸福感に影響を与える因子とは何か。

健康や金銭的な充足度など幸福に影響を与える要因はいろいろとあるが、最も大きな決め手となるのが、その人の社会的な関係性だ。孤独は健康面にも支障を来し、幸福感に大きなダメージを与える。特に関係性の中で、日本が西洋の国と大きく異なるのは、たとえばアメリカやイギリスのような個人主義の国では、歳を取って子供と一緒に住むことを期待していない、ということだ。だから、定年後は高齢者向けのホームなどに移り住み、その中で自分が好きなことをして暮らしていく、という人も多い。

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