「リーガルデザイン」は世界をどう変えるのか 法律のグレーゾーンはビジョンで乗り越えよ

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先日、あるテレビ番組で、サッカー日本代表監督のバヒド・ハリルホジッチ氏とプレミアリーグ・アーセナルのアーセン・ベンゲル監督との対談を見たのですが、そこでは日本人の弱点を指摘していました。彼らは「ルールを最大限、自分よりに活用するのは知性の証明だ」「ルールのギリギリを狙っていかないと、サッカーのスポーツ全体の進化も止まる」と言っていて、それってすごく面白い考え方だと思いました。

サッカーも最初はただの球蹴りでしたが、何のルールもない状態だと、相手の中にゴール前でずっと待っている人が出てきた。そこで、オフサイドというルールが生まれ、これを前提にしてどういう戦略を立てるかを考えるようになっていった結果、オフサイドトラップを仕掛けたり、ディフェンダーとフォワードの間で、ゴール前の駆け引きが生まれてきた。こうしたプロセスを経て、スポーツとしても洗練され、進化してきたわけです。

DeNAはビジョンを示しきれていなかった

――日本では、グレーゾーンを突くビジネスについては厳しい見方をされることがあります。2016年末には、DeNAがキュレーションメディアの記事作成にあたって法的な問題を回避する周到なマニュアルを作っていた件が話題になりましたが、取材をすると「あれはイノベーションを起こすための前提だと考えていた」とおっしゃる人もいました。

DeNAのキュレーションメディア問題の本質は、一言で言うと、キュレーションメディアがどのような価値を実現していくのか、どのような新しい価値をユーザーや社会に提示していくのか、というビジョンを示しきれていなかったことではないでしょうか。それがないままだったからこそ、搾取の構造だけがクローズアップされてしまったように思います。あの手法はよくできている部分もあって、「Googleの検索アルゴリズムのハックだ」なんていう声もあったわけですが、ビジョンが欠落したままだと、いかに可能性のある技術やテクニックであっても、「イノベーション」とは呼べません。

DeNAがどこまで意識的だったかはわかりませんが、注意しないといけないのはグレーゾーンを活用する、というビジネス戦略自体が悪いというわけではないということです。ルールは「破る」ものではなく、ビジョンやストーリーをユーザーや社会と共有しつつ「乗り越える」ものである、という意識が大切であることを再認識する必要があるのではないでしょうか。

シリコンバレーと日本の差異に話を戻すと、実は言われているほど法制度の差異はない。たとえば、昨今話題の人工知能分野では日本は著作権や個人情報保護の観点から世界でも有数の開発しやすい法環境があったりします。シリコンバレーが日本と大きく違っているのは、企業のコンプライアンスの捉え方とビジョンの有無や明確さではないでしょうか。そして、これらのマインドは変えていけると思うのです。

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