裕福な高齢者までが介護保険をもらえる理由 現役世代に負担を強いる中で起きていること

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そもそも介護保険では、介護サービスを主だって受けるのは、65歳以上の第1号被保険者である。ところが、ほとんど介護サービスを受けない40~64歳の第2号被保険者も、保険料を負担しているのだ。

その介護保険には、財産を持っていても低所得である要介護状態の高齢者が、介護施設に入所したときに生じる食費や居住費の一部を免除する仕組みがある。この仕組みによって、食費や居住費を事実上、一部免除される形で給付することから、「補足給付」と呼ばれる。補足給付の受給対象者となる程度の所得や資産を持つ要介護者が、自宅で介護サービスを受ける場合、自己負担で食費や居住費を支払っているのに対して、施設に入所すれば、補足給付が支給されるという不整合も問題だ。

結局、現役世代より経済力のある高齢者の負担を軽くしながら、主に保険料を払うだけの第2号被保険者には保険料を課している点にこそ、問題がある。

そうした現状を踏まえ、今日では、単身高齢者なら1000万円以上、高齢夫婦なら2000万円以上の預貯金を持っていれば、低所得であっても補足給付を出さないことになった(介護施設に入所した要介護者の食費と居住費の一部免除を廃止)。

では、金融資産はあまりないものの、立派なお屋敷の自宅に住んでいる高齢者はどうか。現在の仕組みでは、預貯金しか考慮されないから、補足給付を出すことになる。この補足給付は2014年度で3338億円も出ているから看過できない。

土地所有者を把握できないという欠陥

なぜ、預貯金しか考慮されないかといえば、不動産は換金しにくいからと、もう1つ、所有状況が把握しにくいからである。もちろん、市町村は不動産を持つ個人に対して固定資産税を課すべく、情報を把握してはいる。しかし、同一人物が他の市町村にいくらの不動産を持っているかまでは、名寄せもしていなければ、情報を入手する手立ても今はない。挙げ句に土地所有者が把握できない問題も今は残っている。

土地所有者が把握できないという問題を解決して、不動産登記のデータを整備し、市町村間で所有者の情報を名寄せできれば、誰がいくらの不動産を持っているかが把握できる。たとえば、介護保険における補足給付で不動産まで含めると、十分な資産を持っている要介護者は支払い能力があるとして、給付も抑制できる。そうすれば、介護保険料を払う40歳以上の住民や税を払うあまたの国民の負担も、軽くすることができる。

給付が必要な人には出すが、必要ないほど経済力のある人には給付しない――。そうした公正な仕組みにするためにも、行政手続きの電子化は役に立つのである。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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