裕福な高齢者までが介護保険をもらえる理由 現役世代に負担を強いる中で起きていること

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これらは税務当局が集計してくれれば、企業側が集めなくても済む話である。たとえば住宅ローンの残高は、銀行などが当事者に発行する住宅ローン控除用の紙の書類を、銀行から税務当局へ電子的に直接送ればよい。従業員の家族の異動は、住民票で把握できるから、市役所などから税務当局に情報を送れば済む。

おまけに納税以外にも、本人が加入している社会保障のもろもろの保険者(健康保険組合、共済組合、国民健康保険、厚生年金、国民年金など)とも、情報を共有していない。だから企業は、従業員にいくらの給与を支払ったかを税務当局には報告するが、税務当局が得た情報を社会保障の保険者が同時に共有することはない。いくらの社会保険料を従業員から天引きしたか、年金も医療も介護も雇用保険も、別々に計算しては手続きしなければならないのだ。

納税は納税、社会保険料は社会保険料、住宅ローンは住宅ローン、転居は転居、とそれぞれの仕組みの間で情報共有ができないのが、わが国の現状である。当連載前回でも述べたように、行政機関間の情報共有についての国民的な合意がまだとれていないこともあり、行政機関間で情報を共有することに制限があるから、納税に必要な情報で他の制度から入手しなければならないものについては、紙の書類で別途届け出なければならないといった手間がかかる。

今般の規制改革推進に関する第1次答申では、税・社会保険関係事務のIT 化・ワンストップ化を打ち出した。細部についてはこれからの検討だ、手続きを効率化して、国民や企業の利便を向上させるのに資するものと期待できる。

相続税や贈与税も徹底できていない

さらに答申には不動産登記のデータ整備を促進することも盛り込まれた。これは、不動産登記簿が土地所有者を把握するための実質的な情報源となっているにもかかわらず、相続登記の未了などが原因で所有者情報が実際のものと食い違い、土地所有者が把握できないという問題に対処することが第一義的な目的である。が、税金や社会保障の負担を公正なものにするためにも、不動産登記のデータ整備や行政機関間連携は不可欠である。

まず、個人の所有財産が的確に把握されないと、相続税や贈与税で脱税が起きかねない。本来は相続税や贈与税を課して、資産格差の是正が図られるべきところで、それが徹底できなくなる。また不動産には、毎年固定資産税が課されるが、その課税からも逃れられてしまう。

それだけではない。主に65歳以上の高齢者がサービスを受ける介護保険で、40歳以上の人たちに負担を強いて、財産をたくさん持っている高齢者にたくさん給付を出してしまうという問題も、所有財産が的確に把握されないことによって生じている。

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