銀座「食パン専門店」に行列する人のお目当て 国産小麦の実力はどこまで向上したか

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最近、小麦開発の現場で面白い動きがある。国産小麦は、確かに食パンや菓子パンなどふわふわの食感が売りのパンは作りにくいかもしれない。

しかし、フランスの丸い直焼きパン、カンパーニュなどの製造には向いている。フランスで直焼きのバゲットやカンパーニュが発達しているのは、フランス産小麦の小麦粉が、大きくふくらませる食パンに向かないからだ。

佐賀産「さちかおり」の実力は

そんなフランス産小麦に近い国産小麦の性質に注目したのが、「さちかおり」という品種を開発した佐賀県である。フランスパン用小麦粉としての商品化を目指し、2014年から栽培を始めて現在、生産拡大中だ。

町のパン屋でも国産の小麦を使うパンを見掛ける機会が増えている(写真:小幡 三佐子)

日本で人気のふわふわのパンは、北米産の小麦の小麦粉が中心だったからこそ、成り立ってきた。一方、国内で栽培される小麦は、大きくふくらみにくい性質を持っている。小麦の特質に合わせたパンの可能性を広げるほうが、農産物である小麦の自然にかなうのではないだろうか。

実際、町のパン屋で「国産小麦使用」をうたったパンには、バゲットやカンパーニュなどが目立つ。そして、生産量が少ない国産小麦は、比較的生産者と消費者の距離が近い。国産小麦を使うことに積極的な町のパン屋は、できるだけ地元の小麦を使おうとするからだ。

生産者が、自分の作った小麦を原料にしたパンが売られ、人気になっている現場を見ることができれば、作る意欲が増すかもしれない。コメのように大量生産は難しいかもしれないが、すでにパン用の国産小麦は、一定のブランド力を持ち始めている。今後、生産量が増える余地はあるのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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