使い切れない有給休暇の「換金」は可能なのか まずは「休める」環境づくりが大事だが…

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これは、原則として違法になります。そもそも、年次有給休暇は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図ることを目的としたもの。そのため、休暇を与えることと引き替えに金銭を支給する「買い上げ」行為は、法律の目的に反します。さらに、休暇日数を最初から買い上げる、または買い上げることを予約して、労働基準法で定められた日数を減らしたり、法定日数の休暇を取れないようにすることも違法となります。

例外1:法定以上の年休を与えられている場合

ただし、例外もあります。これは労働基準法の規定を上回る日数の年休を会社が与えている場合です。法定日数を上回る休暇をどのように取り扱うかは就業規則や労働協約の定めに委ねられているので、仮に買い上げる規定があったとしても、違法とはなりません。

たとえば、入社6カ月後に法律では10日分の年休を与えるところ、12日与える規定となっているような会社では、買い上げの規定があれば2日分を買い上げることは差し支えありません。ただ、運用面では複雑になり、労働時間の短縮化が求められる昨今において、こうしたルールを設ける企業は決して多くはないでしょう。

例外2:時効によって消滅してしまった場合

年休の買い上げが違法となるのは、法定日数分で、かつ、時効により消滅していない有効期間内の場合に限られます。そのため、時効によって消滅した日数分であれば、年休を買い上げても、法律には抵触しません。ただし、買い上げの額が実際の手当よりも高額なときは、問題となりうるので注意したいところです。

そうでなくとも、「休みを取らずに時効まで待てば、お金に換えられる」となれば、年休取得が進まなくなってしまいますので、違法とはいえないまでも、行政指導上好ましいものとはいえません。

例外3:退職する場合

退職するときはどうなるでしょうか? 最後まで年休を使い切って退職される方もいますが、すでに転職先が決まっているような場合もあるでしょう。

年休は、本来労働すべき日に労働が免除されるものですが、退職後はその権利を行使することができません。年休の請求権は、労働者の退職や解雇によって労働関係が消滅すれば、それに伴い消滅してしまいます。

消滅して行使できなくなる年休について、当然に請求できるものではありませんが、このような場合に会社側が残っている年休を買い上げることは、違法ではありません。事実、退職時に年休の買い上げが慣習化されている会社もあるでしょう。

「買い上げ」検討する前に、休める環境を

日本の有給休暇の取得率は、諸外国に比べても低く、厚生労働省の「就労条件総合調査」では、2016年調査(データは2015年)において48.7%と、過去10年を振り返ってみても50%を下回る状況が続いています。

本来、心身の疲労回復を目的とするための休暇なのであれば、退職するときに買い上げるという発想ではなく、社員の意思で適度な休みが取れることが大切なことは言うまでもありません。しかしながら、実際は人手不足や職場の雰囲気として休みにくいなど、さまざまな要因で年休が取れずにいる人も多くいるのが現状です。

働き方改革が叫ばれる今、年休の取得率向上を具体的な数値目標として掲げている企業も出てきました。個人の意識だけではなく、会社全体で休暇取得を促進するために何らかの対策を講じることが最も有効といえるでしょう。

佐佐木 由美子 人事労務コンサルタント/社会保険労務士

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ささき ゆみこ / Yumiko Sasaki

グレース・パートナーズ株式会社 代表取締役。アメリカ企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。著書に『採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本』をはじめ、新聞・雑誌等多方面で活躍。グレース・パートナーズ株式会社の公式サイトはこちら

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