北朝鮮経済の実像は「原油」から読み解ける なぜ1日でガソリン価格が高騰したのか

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一方、北朝鮮ではまったく生産できない石油への依存度を意図的に下げた。北朝鮮には原油を精製できる工場施設が2カ所ある。中国から原油の供給を受け精製する平安北道新義州近郊にある烽火化学連合企業所と、ロシアから原油供給を受けて精製する咸鏡北道羅先地域にある先峰化学連合企業所がそれだ。

中国から北朝鮮には、毎年約50万トンの原油が輸入されているという。この原油には「友好価格」が設定され、国際価格よりはるかに安い価格で輸入されているという。さらには、無償援助ではないかとの指摘もある。しかし、この原油は、烽火化学連合企業所で精製された後、再び中国に持ち出されていた。

原油を加工する代価として北朝鮮側が精製された油の一部を受け取るという立て付けだ。もし中国が原油供給を中断すれば、中国の北朝鮮向け原油委託加工事業も中断され、委託加工の代価として北朝鮮が受け取っているガソリンや軽油などが北朝鮮内部で流通しないことになる。

一方、北朝鮮は6、7隻程度の小型タンカー運航を行っている。中国やロシア、あるいは東南アジアや中東地域で原油や精製されたガソリンや軽油などを輸入するために使用されている。これらタンカーは主に平壌郊外・南浦(ナムポ)港で石油製品を積み下ろす。ただ、2017年からは中国・大連港への北朝鮮船舶の入港が制限されているようだ。

タンカーの運航回数を基準に見ると、最近、中国から入る石油製品が明らかに現象しているとの推定は可能だ。一方、ロシアのウラジオストクなどへ向かっている2隻のタンカーは正常運営されているという。これらタンカーは1回に2000~4000トン程度を運ぶことができるものであり、国際規格からすれば小さい方である。だが、航海距離が短い分、1隻当たり毎月1万~2万トンの石油製品を運ぶことができる。

住民らの自主的なエネルギー供給源は太陽光

しかし、このような取引の大部分が貿易統計には載っていない。そのため、北朝鮮が正確にどれほどの石油製品を輸入しているかはわからない。ロシアから北朝鮮に入る石油製品は、年間40万トン前後と推定できる。中国の場合、おおよそ100万トン以上だ。東南アジアや中東から輸入される原油や石油製品までを含めると、北朝鮮は年間150万~200万トンの原油・石油製品を輸入していることになるが、半分は中国からである。もし、中国からの石油製品供給が中断されれば、原油・石油製品全体の輸入量の半分が供給されないことになる。

2000年代に入って、北朝鮮の家庭や農家でお祝い事があると、贈り物として太陽光パネルが贈られるケースが増えている。小規模工場やレストランなどでは、石油を使う自家発電機が使っているところが増えた。政府による電気供給が円滑に行われていないため、自主的に電気を生産・使用できる方法を考えた末の行動だ。

平壌の一般家庭では1日に2回程度、電気供給が止まるため、必要な電気量を自主的に埋めないといけない。地方の場合、電気がまったく供給されていないところも多いため、産業用は「電気泥棒」が横行するか、それなりの自家発電機を利用しているところが大部分だ。

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