英国テロでわかったイスラム国の「弱体化」 政治的影響力は確実に低下している

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パリ、ニース、ブリュッセル、そして今回のマンチェスターでの犠牲者数にもかかわらず、イスラム過激派組織が欧州に及ぼす影響は、パキスタンやナイジェリア、イラクなどの国へ及ぼす影響よりも小さくなっている。こうした国々もまた、目覚ましい立ち直りを見せている。

もちろん、時には、襲撃に対する国民の懸念が重大な政治的影響をもたらすこともある。たとえばボコ・ハラムによる200人以上の少女の誘拐事件は、翌年ナイジェリアのグッドラック・ジョナサン大統領が元軍部の指導者ムハンマド・ブハリに敗れた一因と見なされていた。しかしより一般的には、こうしたことはそう起こらない。

恐ろしい事件が普通になってきている

テロリストによる襲撃が国内の政治力学を変えられるかどうかは、その衝撃度による。たとえば、ワールドトレードセンターの破壊は規模と「見た目」の点で前例がなく、中東に対する西欧の考えは何年にもわたって見直しを迫られた。

しかし米国では、学校の襲撃を含めて市民に関係した銃による死亡が黙認され続けており、恐ろしい事件がいかに普通になってきているか、あからさまに気づかせてくれる。

マンチェスター事件は、2005年7月に起きたロンドンの交通機関の爆破テロ事件以来、英国で最も深刻となっている。しかし、他国で起きているほかの事件の後では、マンチェスターとウェストミンスターの襲撃はどちらも驚きを感じられなかった。悲しみや哀悼の気持ちが損なわれることはないが、より広範な政治的影響は限定されている。

ISは領土を失うにもかかわらず、戦い続けるだろう。ISが徹底的に破壊されるか、または目的を達せられずにその権威が失墜したら、別な組織がその地位に取って代わるに違いない。しかし皮肉なことに、この組織が襲撃を仕掛ければ仕掛けるほど、それぞれの事件の影響力は低下していくのである。

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