飛べない「エアアジアジャパン」で深まる混迷 井手会長が経営の一線から退き、再び増資も

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小田切氏はANAとエアアジアの合弁による旧エアアジア・ジャパンが設立された際、同社へと転じ、両社の合弁解消後も新生エアアジア・ジャパンにとどまり社長に就いた。

2014年7月に行われた「新生」エアアジア・ジャパンの設立記者会見。中央で赤い帽子をかぶっているのが小田切義憲・前社長(撮影:尾形文繁)

ただ、事業許可を得た後、就航準備に時間を掛ける小田切氏とエアアジア幹部の間には深い確執が生まれ、小田切氏は辞任。そして井手氏と、同じくスカイマーク出身の有森正和・現CFO(最高財務責任者)が招聘された。

その後の航空局とのやりとりは停滞した。事業許可が下りてから実際に運航を開始するには、航空局による多くの検査を経なければならないのだが、マレーシア本社では事業許可が出ればすぐ飛行できると考えていた節がある。

国交省の検査がクリアできない

航空局による検査にはさまざまなものがある。関係者によれば、エアアジア・ジャパンは、航空機の運航管理・整備や乗員の訓練に必要となる基本的な施設の検査のほか、航空局職員が立ち会う以前の通常飛行の試験すら終わっていない状況だという。「今夏の就航も厳しいのではないか」との声も聞かれる。

運航ができなければ、当然収入もない。航空機のリース料や駐機料、施設の賃借料、そして人件費など、多額の費用を垂れ流すばかりだ。収入がないと銀行も融資に応じない。頼みの綱は増資しかない。

5月15日付の登記簿からは、この4月に3度目となる増資が行われたことがわかった。金額は約16億円。どの株主が応じたかは「開示していない」(広報)という。昨年3月には約30億円、12月にも約10億円の増資が行われた。増資はすべて無議決権株式だ。本国のエアアジアが普通株式で増資に応じると、航空法が定める外資の議決権の上限3分の1を超えることを考慮しているとみられる。

すべての株主がいつまでも増資に応じるとは限らない。本国のエアアジアも、現在中国やベトナムで新たな航空会社を立ち上げようとしている。日本だけに構っている余裕はないだろう。就航に向けた検査を乗り切れるだけの人材を確保することが急務といえる。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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