なぜ金融緩和しても低インフレのままなのか 日銀は過去の金融政策に対する認識を示せ

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民主党政権時代の負の遺産とはいえ、消費増税を決めたのは安倍政権であり、日銀だけを批判するのは酷である。実際には、3%の消費増税という大規模な財政政策の引き締めが実現する中で、金融政策だけでその逆風を跳ね返すことは、極めて難しかったと筆者は考えている。それでも、消費増税という逆風に対して十分な金融緩和が行われなかったのは事実である。

日銀は消費増税による景気の落ち込みが明らかになった2014年10月末に、QQE2(量的・質的金融緩和第2弾)に踏み出しリカバリーを試みた。QQE2の効果は大きく、低下していたインフレ期待は円安進行とともに一時的に高まったが、結局、消費増税による実質所得、実質消費減少が尾を引き、2014年度の日本経済はほぼゼロ成長まで落ち込んだ。

日銀は過去の金融政策に対する認識を明示すべき

つまり、金融緩和にもかかわらず2%インフレの実現が達成できない最も大きな理由は、金融緩和がもたらす成長刺激よりも、消費増税の成長押し下げが大きかった、ということになる。そして、2014年末からの原油安、2015年央からの円高に転じたことが、インフレ期待の低下をもたらした。

原油安そのものは日銀のせいではないが、インフレ低下を一過性と日銀は判断していた可能性が高い。また、2015年央から2016年秋口までの円高もインフレ期待をさらに低下させた。

当時の円高の主たる原因は米FRB(連邦準備制度理事会)の再利上げが後ずれしたことだが、日銀がインフレ期待低下を容認すると受け止められたことも当時の円高を後押ししたと筆者はみている。この二つが、インフレ期待を押し下げたため、そして実際のインフレ率が再びマイナスの領域まで低下した。

以上が、「金融緩和を行ってもインフレ率が上がらなかった」ことに対する筆者の回答である。日銀がこうした認識をはっきり示すことが必要ではないだろうか。

今後2%インフレの実現に向けて、日銀はさらに粘り強く現行の金融緩和政策を継続すると筆者は予想している。過去の金融政策に対する認識を明らかにすることは、今後の金融市場を通じた金融緩和の景気刺激効果を高めることになるだろう。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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