三菱重工の小型旅客機、年内の離陸は困難に 初飛行また延期で暗雲。新たな受注獲得も遠のく

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ライバルが改良機を投入

懸念されるのが、販売への悪影響だ。MRJの受注はオプション契約を含め300機を超えたが、このうち確定分は半分の165機。昨年末以降は受注がなく、500機前後とされる事業の採算ラインは遠い。米国など海外エアラインからの関心は高いが、旅客機メーカーとしての実績がないため、飛行試験で性能を実証するまで受注の上積みは難しい。

最大のライバル、エンブラエルの動きも脅威だ。同社は今年6月、新モデルの開発に着手すると発表した。現行機種をベースとしつつ、主翼の刷新に加え、MRJと同じP&W社の最新鋭エンジンを採用し、「現行機種と比べて燃料消費量は1割以上減る」(同社)という。

新モデルは、すでに150機の確定受注を獲得。まず18年に100席クラス、20年には80席クラスの納入を開始する計画だ。となると、三菱重工にとって、時間的な猶予は限られる。エンブラエルの新モデルが登場すれば性能優位性が薄れるため、どれだけ早く世に送り出せるかが事業の成否に直結するからだ。

一方、旅客機の開発は飛行試験までたどり着いてもまだ道半ば。延べ2000時間以上の飛行試験を経て、その結果を設計にフィードバックするだけでなく、最終的には航空法で課せられた400項目に及ぶ安全基準を完璧にクリアし、国から承認を得る必要がある。

この安全性承認の取得こそが最大の難関だ。そこでも手間取るようだと、MRJの納入開始時期はさらに遠のく。三菱重工が挑む半世紀ぶりの国産旅客機プロジェクトは、まさに時間との戦いになってきた。

週刊東洋経済2013年8月10-17日合併特大号

渡辺 清治 東洋経済 記者
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