「異色すぎるNHK経済番組」は、こう生まれた 大反響!「欲望の資本主義」発想の原点

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何事も調子がよく見えるときは、「余計なことを言うな、波に乗れ」という空気が場を支配する。空前の経済力を世界に誇示する国際都市TOKYOに漂う気分は、地方から出てきた一学生の身にはプレッシャーでもあった。

バブル、その熱病の渦中にある空気は、なかなか個々の人間に「主体的」な判断を許さない。まさに欲望の資本主義、「やめられない」「止まらない」空気が支配し、個々の人間は降りられない。

近代経済学は数字をめぐる「物語」?

そうしたバブル時代の空気への対抗策として、さまざまなフィールドの知を自らの生き方の糧とすべく、僕は自分なりの「越境」を試みた。母校慶應義塾大学だけでなく、「教養」を掲げる他大学の講義にもぐるようになったのだ。

面白いもので、単位と無関係、義務の意識が解ければ娯楽となる。こんな人間のアマノジャクとも言うべき不思議なサガを自覚したのもこの頃のこと。

スリリングな知見を語ってくれる教授の講義に、いつの間にかさながらミュージシャンのライブのような軽い興奮を覚えていた。大衆消費社会の大波の中、自らが「消費」されないための「渉猟」は、人間の認識というものの逆説も教えてくれた。

東大駒場の文一文二対象の「経済原論」にもぐり込んだときの記憶は生々しい。

教壇に立っていたのは、アメリカ帰りの岩井克人助教授。すでに「不均衡動学」で資本主義は本質的に不安定であると構想していた岩井さん。伝統的な経済学の枠組みの中でラディカルな問いかけをしつつ、スタンダードな「近代経済学」の理論を東大生に講じる胸中を想像しながら、聴講したものだ。その後の『ヴェニスの商人の資本論』『貨幣論』などへの展開はご存じのとおり。

そしてまた、もう1人、印象深い、タイプの異なる経済学の「越境者」がいた。西部邁教授だ。

「さて皆さん、こうして私が1年かけて講じてきた経済理論も、いわば砂上の楼閣であり、早晩夢のように消え去るのです。近代経済学が単なる数字をめぐる物語であることを実感するときが来るでしょう」

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