iPhoneが変える!? 波乱の携帯ビジネス ついに日本に上陸

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狙うはauとドコモの高単価顧客

アップルのビジネスモデルは実にわかりやすい。一方、ソフトバンクはどのように稼いでいくのか。

月額通信料体系を見ると、基本使用料980円のホワイトプランにインターネット接続基本料の315円、パケット定額フル5985円への加入が必須となっており、7280円以上のARPU(1契約当たり月額収入)を確保できる。

通信大手3社で比較すると、ソフトバンクのARPUはいちばん低い。2台目需要や、低料金プランにひかれた加入者が多いためだ。同社の07年度第4四半期のARPUは4310円で、内訳は音声2710円、データ1600円だ。一方、アイフォーンユーザーから得られるデータ料金は5985円となり、現在のデータARPUの4倍近くに相当する。

孫社長は「端末代金と販売店への手数料を払うので、目先は売れば売るほど逆ザヤ。しかし通信料収入で取り返せる」と言う。「今回の最大のポイントは、アイフォーンが差別化商品ということ。他社さんをやめてでも移りたいというお客さんを確保できるのではないかと思っている。そういう方々はARPUも高く、われわれの収益は成り立つ。データ通信量は多くなるが、ユーザー数が増えればネットワークのスケールメリットも出る」(孫社長)。

ある代理店によると、発売前の問い合わせの半分は非ソフトバンクユーザーだったという。表参道店で発売当日に購入した人に聞くと、「ドコモを使っているが、アイフォーンは音楽や映像を楽しみたい」(東京都・梶野さん、現在の月額通信料金は2万円台)、「仕事仲間でアイフォーンを購入。au携帯はワンセグを見るために残す」(東京都・古賀さん、現在の月額料金は1万7000円前後)といった具合で、ソフトバンクが狙った層が動いている。

とはいえ、「今、高額のデータ定額を払っているのは数%程度。新しい市場を創造できるかの挑戦」(前出・増野氏)でもある。

バカ売れも痛しかゆし インフラのリスクも

アイフォーンに対し孫社長は興奮ぎみだ。「音楽を楽しめるのは当然だが、ゲームをやるにしても面白いマシン。WiiリモコンのモーションセンサーとDSのタッチセンサーが入っているようなもの。開発ツールはマックと同じ。日本の携帯だと、たとえばゲームを作ろうとすると毎回作り込まないといけないが、アイフォーンだと、マックPCのOS X(オーエステン)で動くアプリはドーンと移植できちゃう」。

アイフォーンに飛びついているのはガジェット好きの個人ユーザーだけではない。ある大手代理店では「ゲームメーカーやコンテンツ会社からの問い合わせがある」と言い、ソフトバンクモバイルの後藤誠二執行役員は「すでに法人オーダーが入り始めている」と、法人需要にも大きな期待を寄せている。

一方で順調に台数が売れていった場合には、深刻な課題にも直面する可能性がある。アイフォーンは本格的なインターネットマシンであるゆえ、データ通信量が通常の携帯電話端末と比べ10~20倍。他社に比べ、なお脆弱性がある3Gネットワークインフラへの負荷にどう対応していくかが課題だ。

前述のようにアイフォーンは3Gネットワークだけでなく、無線LANを使うことができる。しかし、無線LANの接続スポットが大量に設置されている米国の大都市と異なり、日本は無線LANのインフラが貧弱だ。大容量のデータ通信を行う際、3Gに集中する可能性が高く、無線LANスポットの増設、利便性向上なども急務になる。

 


(梅谷秀司、尾形文繁、玉川陽平 =週刊東洋経済)

 

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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